新たな幸せルーティーン


「まもちゃん、帰ろ♬.*゚」

午後の講義が一通り終わり、下校の時間になったうさが俺がいるゼミの部屋へといつもの様にやってきた。もう、すっかり慣れた様子だ。

うさが中学生の時はいつも俺が待たされる番で、慌てて待ち合わせ場所に来ていたが、今やすっかり逆転現象。うさが俺のゼミの教室にやって来て帰る様になった。
医学部は専門の学部だ。覚える事や勉強する事が山ほどある。やり過ぎて困ることは無く、寧ろやり過ぎと言うことも無いし、勉強ばかりしていた。
こうしてうさが迎えに来てくれるようになったから余計にそこに甘えて時間も忘れて勉強や研究をしていると言っても過言では無い。

うさが俺の大学に入学してから2ヶ月余り。最初はとても驚いた。それはうさからのサプライズだったからだ。
あのお喋りなうさが、俺の通う大学にはいるため、必死で勉強をして頑張っていた事を全く言わなかったのだから感心した。俺が留学していたからこそ出来たことだろう。
何故かと後に聞いたら、俺が留学して寂しかったこと、敵も襲ってこなくなり平和で時間が有り余ったことが起因し、一大決心をして大学を目指す事にしたのだとか。
そして更に何故俺の大学なんだと聞くと、医学部の俺は六年大学に通うと知り、仮に浪人したとしても二年は一緒に大学に通えるからラッキーなのだと。
早い段階から大学行きを決意しながら浪人を覚悟しているのはいかがなものかとは思ったが、単純に嬉しかった。
頑張ったうさはちゃんとこうして浪人せずに大学に入れたのだから、相当な努力をしたに違いない。動機は不純であれ、俺と一緒に大学に通いたい、少しでも一緒にいたいという理由でもここまで頑張れるのは凄いと思う。ありがたい。あの勉強嫌いの英語30点のうさがなぁとしみじみする。

それともう一つ。医学部を卒業した俺は、晴れて病院勤務となるのだが、その後は二年の研修期間がある。
つまり、一人前ではない。一人前になるのに短く見積もっても俺は27歳になる歳までお預けだ。その時のうさの年齢は24歳。
高校を卒業してから六年もうさを待たせてしまうことになる。その事を俺と同じ医者志望である友人の亜美ちゃんから聞かされたらしく、六年も何もせず俺が一人前になって結婚出来るまで待つのは流石のうさも辛かった様だ。
うさの夢は結婚してお嫁さんになる事。だけど、この現代において専業主婦と言う道は余り歓迎されない。その事をひしひしと感じていたうさは、ただこまねいて待つだけではダメだと考えたらしい。
俺たちの未来は決まっている。クイーンになるにしろ、ならないにしてもやはり勉強はしておくに越したことはないとうさなりに考えた結果、俺と同じ大学に通うと言う事だったそうだ。
まあ、進路希望調査書に“結婚”と書くのは流石のうさでも勇気がいったと聞いた時は笑ったけどな。
因みに美奈子は早々と大真面目に“アイドル”と書き提出し、先生にもっと真面目に考えろと怒られたのをうさが見ていたらしい。
そりゃあ“結婚”なんて書けないよな。
その点でも大人になったみたいだ。

俺も結局、二年も留学してしまったし、ただ寂しい日々を送るより、こうして目標を持って頑張っていたと聞くと、俺の留学もうさにとって意味があったのだと思うと、ホッとした。
俺がいないところでうさも成長し、大人になったのだなと嬉しくなると同時に少し寂しさも感じた。

だが、俺のためにここまで考え、行動してくれたうさに俺は本当に愛されているんだと実感した。きっと相当頑張ってくれたんだと考えると感謝しか無かった。
うさが頑張ってくれたお陰で今ある幸せを守りたいと思った。
うさと一緒に同じ大学に通い、キャンパスライフを送り、そして一緒に帰宅する。正に青春だ。
制服を着て放課後デートも楽しく、かけがえのないもの時間だった。けど、同時に戦いの日々でもあり、辛い記憶も蘇る。

一ヶ月後には前期のテストがある。うさと一緒に大学のテスト勉強と言うイベントを共に出来るのもまた平和で幸せな証だ。
これから少なくとも三年、うさと大学のイベントを一緒に共有出来ることが嬉しかった。

「うさ」
「もう帰れるんでしょ?」

大学の講義は全て終了した。うさが受けている講義も滞りなく終わったらしく、後は帰るだけのようだ。
話す言葉にこれから俺と帰れると喜んでいるのが伺える程、軽快でまるで歌っているかのように聞こえる。
それが、俺は急遽ゼミが入ってしまったから帰れないんだと伝えなければならないのが残念だ。ドアの前で笑顔でいる恋人の顔を見ると良心が痛む。

「ごめん、うさ」

そこまで言うと察したうさの顔は見る見る曇る。ああ、本当に百面相。表情がコロコロ変わる。この変化しまくる顔が好きなのだが、俺の言葉で落ち込む顔はやはり何度見ても好まないし、慣れないな。

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