二年一組の名物カップル


しかし、そんなある日、俺は決定的瞬間を見てしまった。
月野に話しかけた男子生徒がいた。
別に悪い事じゃない。
だけど、傍にいた地場は快く思っておらず、月野に見えない所で睨み付けていた。
まるで「俺の女に話しかけたら殺す」と心の声が聞こえてきそうなほど、面白くねえと睨んでいた。
本人はすぐに気づいて怖気付き、誤魔化しながら退散した。
そして、周りの男子もそれを目撃していて、全員が青ざめていた。

「月野に話しかけるべからず。さもなくば死だ」とその場にいた男子たちの暗黙のルールが出来上がった瞬間だった。
そして誰が言ったか、その噂は瞬く間に広がり、誰も地場がいる時は月野に話しかけないことは勿論のこと、目も合わせようとしなかった。
恐るべし、地場衛。

だが、本当に恐ろしいのは月野の方だ。
地場のそんな顔など露知らずで地場に幸せそうな笑顔を向けている。
そんな幸せオーラ全開の月野を見ていると、地場の見る目は間違ってないどころか、めちゃめちゃ可愛い♪そして、とても色っぽい。
惜しいことしたな、と思ってる自分がいる事に気づく。これが隣の芝生は青く見えるって奴か?
好きって訳では無いけど、何か見抜けなかった俺の鈍感さに少しイライラする。その程度だ。
地場には敵わないからそれ以上の感情はご法度だな。そもそも地場が引き出してる色気だから、俺には無理だし。

最初こそ宣言してベタベタ位だったが、段々行動はエスカレートしていき、話は冒頭に戻る、という訳だ。(長い前置き、失礼する)

そのやり取りは、いや、そのやり取りも、突然の事だった。
昼の弁当を食ってる時にそれはやって来た。

「まもちゃん、はい、あーん♪」

ド定番の事やりだしたが、地場に限って受け入れないだろうと思っていた。
が、その予想は意図も簡単に外れてしまう。
しかもまもちゃんって呼ばれとる!あのクールな地場が“ちゃん”付けで呼ばれてて、しかも受け入れとる!滑稽!オモロ。

「ん、美味い!」
「えへへぇ~」

ほう、月野の手作り弁当か?
ベタな恋人してやがるな。
……ってちがーう!地場が、あの地場が受け入れた!

「うさこ、付いてるぞ!」
「えぇ~取って、取ってぇ~」
「仕方ないなぁ、うさこは!」

月野の顔に付いている食べ物を当然の様に取って食べてやってる。
甘いな?甘い2人だ。
しかし、あのクールな地場が彼女にはこんなに楽しそうにして、しかも色んな意味で甘いし、恋ノチカラって奴はすげぇな。
人格をも変える。それが恋の魔法。オソロシイ。
そして散々イチャコラ弁当を見せつけてくれた後、恒例のやり取りが始まった。

「まもちゃん、だぁい好き♪」
「俺もうさこの事愛してるぞ!」
「わぁい、嬉しい♡私のどこが好き?」
「全部!うさこは?」
「私も全部だよ♡」

うわああああああ。聞いてるだけで歯が浮きそう。何だこの食後に胃もたれ必須なスイーツなやり取り。俺ら何見せつけられてるんだ?胃薬飲んどくか?
この日はこの程度で終わった。
しかし、ここから日を追う毎にラブラブトークはエスカレートして行く。
これは本の序章に過ぎなかった。
ことある毎に2人による告白大会をしている。
授業中は流石に無いけど、終われば途端に始まる告白大会。
仲がよろしいようで何よりです。
本音を言うと独り身に見せつけられているから見てて心臓に悪い。

「まもちゃん、大好きだよ♡」
「俺だってうさこを愛してるぞ♪」
「私の方がまもちゃんの事好きだもん!」
「それは違うな。俺の方がうさこを愛してるぞ!」
「わたしだもん!」
「俺だ!」

ラブラブケンカップル爆誕の瞬間だった。
俺らは何を見せられてるんだ?という感じで兎に角ポカーンだった。
好きの度合いなんて目に見えないし分からない。どっちがどれ程好きかなんて正直どうでもいい。

しかし、この日からこの“どちらがより好きか”の言い争いは毎日続く日課になった。
周りにとっては地獄である。
地場がこんな言い争いをする程月野が好きな事にも驚きだ。
いや、そうでも無いか?
言い争いと言えば最初から喧嘩していた。
その事を思えば2人のスタンスは変わっていない。寧ろ1ミリもブレてない付き合い方ではある。とても2人らしい。
そんなラブラブでベタベタな2人の付き合いはどこまで行っているのだろう?と下世話な妄想をしてしまった。
そんなある日の事だった。
またそれは突然やって来た。

「うさこ!うさこの席はここだろ?」

そう言って月野の手を引っ張り、何と地場の脚の上に乗せたのだ!
月野は最初こそ真っ赤になって照れてはいたが、慣れたのか地場の首に手を回し、抱き着く形になっている。案外と状況適応能力偏差値高ぇな、月野。
って待て待て!別にお姫様抱っこじゃないんだから、そんな抱きつかなくても良くね?
顔、ちけぇわ!キス、するんじゃね?って位の距離感。
するのか、キス?

「ここはうさこの、うさだけの特等席だから」
「まもちゃん♡」

いやぁ~、凄いわこのバカップル。
もうこれ、事後じゃん?確定やん?
身体の関係までバッチリある証拠じゃね?
もう好きな様にしてくれ!って感じ。
そしてさり気に呼び名変わったな?どういう心情だろうか?

まぁ何にしろここまで来ると、一体どこまでラブラブっぷりがエスカレートするか見届けたい。
なぁに、怖いもの見たさってやつだけどな?





おわり

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