二年一組の名物カップル
「まもちゃん、だぁい好き」
「俺もうさこを愛してるよ」
また始まったよ、この2人の周りが見えていない。まるでこの世には自分たち二人しかいないのかと思う程二人の世界が展開されるこの風景。もう何度目だろうか?
最初はとても驚いた。
二人が付き合う事になった事も、こんなにラブラブで周囲の方が恥ずかしくなって赤面を通り越して呆れるほどのカップルになる事も予想していなかったから。
「私の方がまもちゃんの事好きだもん!」
「俺の方がうさこの事愛してるんだ!」
今日もエンジンかかってきて本調子になって来たな。
この調子でこの後もずっとこんな感じでどちらがより好きかと言う口論が永遠と繰り広げられる。
見ているこっちが恥ずかしいバカップル振り。
さて、何故俺がこんなにこの2人のバカップル振りに引いているかという話をしておこう。
話は一学期が始まった日に遡る。
地場衛と月野うさぎは名簿が近く、前と後ろに座っていた。
あいうえお順だから地場が前、月野が後ろだ。
そこまでは普通にあるクラスのあるある。
しかし、ここからが普通じゃない。2人ならではの展開だった。
始業式の次の日から本格的に授業が始まり、ここから2人のやり取りも始まった。
地場は背が高く、後ろの奴は黒板が見えずらい。
月野は背が低い。その為、地場の背中が邪魔でノートが取れないと嘆き始めた。
「ちょっと、あんた!」
休み時間になると月野は持っていたシャーペンで地場の背中を突く。
これは面白いものが見られると思い、俺は引き続き観察することにした。
「何だよ?俺の名前は地場衛だ!あんたじゃない」
「知ってるわよ!今はそんな事どうでもいいの!」
「良くねぇよ、たんこぶ頭!」
「しっつれいねぇ!これはお団子ってゆーのよ!木偶の坊!」
「お前も大概失礼なやつだな」
あっちゃあー、話がこじれてややこしくなってるよ……。
そんなやり取りしてる場合じゃないんじゃねぇの?
黒板が見えずらかったこと、伝えたかったんじゃねぇのか?
「で、何なんだ?」
「あ!そーだ!そうだった!あんたの背中で黒板見えずらくて……」
「で?だから?」
「屈んでくれると有難いなって」
「……めんどくせぇ」
「なっ?」
うわぁ、瞬殺!塩対応が過ぎる。
不穏な空気が流れ始める。
益々面白い展開になりそう。
「めんどくせぇ、って何よ!クラスメイトが自分のせいでテストで赤点取っても心痛まないわけ?」
「ああ、別に。俺には関係ねぇし」
ハハハ、確かに誰がどうなろうと知ったこっちゃねぇよな。正論だ。さあ、月野どう出る?
「冷たい人ね!よぉく分かったわ!あんたのせいで赤点取って落第したら一生呪ってやるから覚悟してなさいよ!」
水と油だな。分かり合えず交渉決裂したよ。
まぁ地場は1年の時から同クラだけど、誰に対してもあんな感じで冷たい。人に心を開かない。開こうとしない。
笑顔も笑ってる所も見たことは無い。
それが今回も顕著に出たという感じだな。
ただ、見た目がずば抜けてるだろ?顔面偏差値3000超えだから、冷たくても女子モテはする。
告白も良くされているのを見たけど、何が気に入らないのか美人な先輩をもこっぴどく振ってたのを度々目撃していた。
同性愛者だと疑っていたりする。(なお、今も疑いは晴れていない)地場なら、抱かれても良い位には覚悟してたりする。ただ、男とも仲良くはしないけどな。
月野の方は今回初めて同じクラスになったからどんな奴かは知らないが……。
「残念だったな、月野。まぁアイツは1年の時からあんな感じだから諦めろ」
「そんな……」
俺からのトドメの言葉に、月野は明らかにガッカリしていた。
慰めたつもりだったが、絶望の言葉に聞こえたらしい。
と、こんな風にファーストインプレッションが色んな意味で最悪な2人の幕開けの会話だった。
そしてこれ以降も席替えがあるまで何かと言い争っているのを月野の席の隣の俺は「懲りねぇな」と思いながら楽しく見ていた。
席替え後も何かと揉めてはいたが、少し遠くなったこともあり、それ程では無くなった。