永遠の花ーMemento Moriー


時は経ち、衛とうさぎはキングとクイーンとなって女の子ーーースモールレディを設けていた。
久しぶりの休日を親子三人で過ごしていた。

「わぁーい」

外ではしゃぐ娘を見て、二人はすっかり親の顔となり微笑ましく見守っている。

「あっ、セミだ~」

蝉を見つけて嬉しそうに駆け寄ったが、見る見るうちに顔が曇っていく。
元気な声が聞こえなくなったクイーンは、心配になり駆け寄り娘を覗き込む。
するとそこには、動かなくなった蝉がいた。

「ママァ……セミさん、元気が無いみたい」

そこにはかつての自分がいた。月でプリンセスをしていたが、地球に憧れを持ち、王子であるエンディミオンを愛してしまい逢瀬を繰り広げていた時の自分。
どうして動かないのか分からないで困惑している娘を見て思い出す。エンディミオンに生きとし生けるものには寿命があり、死がある事を教わった。
そしてそれは今度は自分の役割となるのだと娘を見てクイーンは意をけして大きく深呼吸をした。

「スモールレディ、そのセミはね?死んでいるのよ」

まだ幼いスモールレディには理解出来ないし、時期尚早かも知れない。そう思ったが、その時は今だとクイーンは直感して重い口を開いた。

「シンデイル?」

全く理解出来ないとちんぷんかんぷんな顔をしているのを見たクイーンは、前世のあの時の自分と重ね合わせた。
似た者親子。やはり命の重みが理解出来ないのだと。スモールレディの場合は、まだまだ幼い。ダメな事では無いが。

「そう、生きているものには命に限りがあってね?このセミは生きる事を全うしたのよ」
「まっとお?」
「そう、この世での役割が終わったの。で、あの世でまた生きる意味を探しているの」
「あの世で元気にしているの?」
「そうなら良いわね」

幼いとは言え、そこは才色兼備な衛のDNAで理解が早かった。
そして頭の回転や切り替えも早く、次の世界での幸せを願う有様。元が馬鹿なうさぎのクイーンは、脱帽して頭が上がらなかった。

「パパとママも限りがあるの?」
「ううん、パパとママ、スモールレディ含めて人間はみんな1000年の寿命を持っているわ」
「そっか」

人間は銀水晶の力で1000年の長寿時代を迎えていた。
しかし、前世での事やこの世での衛との事で草花や虫等は銀水晶の加護を受けず、自然の掟に逆らわないで生をまっとうして欲しいとクイーンは考えた。その方が良いと考えたのだ。

「スモールレディ、一つ賢くなったな」
「うん、えへへー」

キングに褒められ、スモールレディは自身の髪の色と同じ色に頬を染めて照れた。

「セレニティ、君も重い話を背負わせてしまってすまない。成長したな」
「ううん、これはーーー命の重さを教えるのは私の役目だと思ったから」

当然の事をしたまで。そう感じていたが、少し早かったかもしれないと後悔はしていた。

「早かったかしら?」
「いや、分からないよ。子育てに正解なんて無いからな……」
「そうね」
「セミさん、バイバイ。あの世でも楽しくね」

誰が教えた訳では無いが、スモールレディはそこら辺の土を掘り、蝉を埋めて手を合わせていた。
限りある命に向き合い、スモールレディは少し大人になった。

「お別れ、出来たか?」
「うん」
「頑張ったな」

静かに蝉を思い、頬を濡らしていたスモールレディの心にキングは優しく寄り添ってやった。
そこには、かつて知らない命にまで悲しんでいたらキリが無いと冷たく言い放った冷血な衛の姿は無くなっていた。
敵と戦い、医者となって患者の命や家族、親戚等と触れ合い成長した衛がそこにいた。勿論、うさぎの存在も、あの喧嘩も大きい要因だろう事は明白だ。

「エンディミオンも、すっかりパパね」

その様子を傍らで見ていたクイーンは、微笑ましくなった。
人としての心を取り戻し、父親として成長途上のキング。この人となら、この先の長い国王としての重責も、1000年と言う長い月日も手を取り寄り添い生きていけると確信した。

「ママ、この花ママみたいだね」

三人でお花畑へと歩いていると不意にスモールレディが指指したその先を見るとーーー前世にエンディミオンから命の尊さを教わった花、秋桜が一面に咲いていた。

「ほら、やっぱりこの花は誰がどう見てもセレニティ、君なんだよ」
「まぁ、エンディミオンもスモールレディも……」

似た者親子なんだから。その言葉はセレニティは飲み込んだ。
胸がいっぱいで言葉にならなかったからだ。

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