永遠の花ーMemento Moriー


次にうさぎが目を覚ましたのは、見知らぬ部屋だった。知らない天井があった。

「ここ……は?」

目を覚まし、すぐに声を出すと隣から息を飲む気配がした。

「うさぎっっ」
「うさぎ!!」
「姉ちゃんっっ」

両親と弟だった。3人ともうさぎが意識を取り戻すとホッとして涙を流している。

「あ、たし……」
「車に跳ねられたって聞いて、びっくりしたわよ」
「うっ、うさぎ、生きててくれて良かった」
「バカうさぎ!死んだりしたら許さねぇからな!」
「パパ、ママ、進悟……」

うさぎは、直前の事を思い出していた。
そうだ。衛と喧嘩をして、その場を飛び出して車に引かれたんだと一気に思い出し、涙が溢れて来た。

「うさぎ?どこか痛いか?」
「……ううん、平気だよ?」

衛と喧嘩したままだということを思い出し、うさぎは悲しくなった。
しかし、自分が交通事故に合い死にかけた事で、こうして両親や弟がこんなに悲しんだり、意識を取り戻すと泣いて喜んでくれたりしてくれると知り、胸が熱くなった。
そして同時に、セーラー戦士として敵と戦い何度も命を失いかけた事に、後ろめたさを感じる。
けれど、やはりこうして自分にも死んだら悲しんでくれる人たちがいる。その事を再確認出来たことで、より命を大切に粗末にしてはいけないと気を引き締めた。
そんな事を考えているとーーー

「うさっ!」
「……まもちゃん」

家族の後ろに紛れて姿を現したのは、大粒の涙を流した衛だった。
育子からうさぎが危篤だと聞かされ、慌てて病院へと向かい、駆けつけたのだ。
弱々しくベッドに横たわるうさぎを一瞬見て、痛々しいうさぎを見てはいられずその場を後にした。

確かに自分にはヒーリング能力がある。その力を使えばうさぎはすぐに目を覚ますだろう。
家族もいる手前、それは出来なかったがもう一つ。医者を目指している以上、この力を使う事は反則だと。不平等だと考えた結果、うさぎの生命力に賭けることにした。
うさぎならきっと大丈夫。戻って来てくれると衛は信じていた。

それに、うさぎがこうなったのは自分との喧嘩のせいだ。うさぎが言わんとしている事、伝えたい事はそういう事では無いかとうさぎの姿を見て感じていた。

「俺たちは、先生を呼んでくるよ」
「そうね。うさぎが目を覚ました事を言わなくちゃ。ね、進悟?」
「え?あ、ああ、うん……」

後は若い2人で……雰囲気でそう察した優しい父親は、そう言って家族を連れ出した。進悟は空気を読めておらず、若干不服気味出会ったが……

「うさ、さっきはごめん。俺が悪かった。俺、うさが死んだらと思ったら……」
「まもちゃん……私の方こそ、ごめんなさい。でも、まもちゃんに分かって欲しかったの」

事故は本当にうさぎの不注意からだった。
けれど、奇しくも怪我の功名で衛はうさぎの言いたいことが身を持って痛感していた。
そして、二人は無事に分かり合う事が出来、晴れて仲直りする事が出来た。
環境が違う分、価値観も違う。
しかし、それは話し合い歩み寄ることでその心の距離は埋められる。二人の深い愛がそれを証明した形になった。

「うさは、まもちゃんを残して行ったりしないから安心して」
「うん、ありがとな」

それは、遠い昔の悲しい想い出とプリンセスとして覚醒した時の絶望。目の前で置いて逝かれる悲しさを経験したからこそ、残して行けないとうさぎは考えていた。
そして、衛は幼い頃両親に先立たれて置いて行かれた。置いて行かれる側の気持ちは誰より理解が深い。

「うさ」

弱々しくベッドに横たわるうさぎに衛は唇にキスをしてやる。唇を伝い、衛の力が注がれる。見る見る元気を取り戻すうさぎ。

「ふふっ白雪姫みたい」
「林檎はないけど、お姫様?こちらをどうぞ」
「まもちゃん、それは……」

林檎の代わりに衛が差し出したのは、この時期になると咲き誇る花ーーー秋桜だった。

「ああ、覚えているか?」
「勿論!忘れるわけないよ」

秋桜ーーーこの花は二人にとって特別な花だった。

「前世で命の大切さを教えてくれた花。それに、私みたいって言ってくれた花」
「そう、それに」
「まだお互い前世の記憶を無くしていたタキシード仮面とセーラームーンとしても想い出の深い大切な花」
「そうだな。やっぱりこの花はうさみたいだ。花言葉を知ってるか?」
「ううん、知らない。なぁに?」
「乙女の真心、謙虚。 後は、乙女の純潔、美麗。な?うさその物だろ?」
「もう、まもちゃんったらぁ~」

可憐な秋桜の様に、うさぎは照れたように微笑んだ。

「うさ、愛してるよ」
「私も大好きだよ、まもちゃん」

もう、数時間前の大喧嘩を繰り広げた二人はそこにはいない。
いつも以上に熱々で絆を取り戻した二人がそこにいた。

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