永遠の花ーMemento Moriー


休日、うさぎはいつもの様に衛のマンションへと遊びに来ていた。
最初はぎこちなかったが、月日が経つとすっかり慣れて寛いでいる。

そんなうさぎは、今日は衛と一緒にテレビを見ていた。
見ているジャンルは、アニメでもドラマでも無く知的な衛に合わせてドキュメンタリー。動物が主役だ。

うさぎ自身もルナと言う猫をーーー実際は人間の言葉を話す変わった猫だが。買っている為、興味を惹かれて食い入るように見ていた。

「可愛い♡」

最初こそ犬や猫を見てはそんな普通の事を呟いていたうさぎ。
それを見た衛は、微笑ましく思っていた。

しかし、時間が進むにつれて、ドキュメンタリー特有の物悲しい雰囲気になると、状況は一変。

「飼い主が見つからなければ、殺処分される行き場の失くした犬や猫たち……」

そんなナレーションが流れると、笑顔は消え、今にも泣きそうな顔でうさぎはテレビから顔を逸らすこと無く見ていた。

「そんな……酷いよっっ」

まだまだ元気な動物に、飼い主が見つからなければ待つのは死のみ。そんな現実を突きつけられたうさぎは、心を痛め、怒り狂いながらも遂に目に溜めた雫が頬を濡らしていく。

「まぁ、飼い主が現れなければ仕方が無いな」

現実を受け止めきれないうさぎに対し、衛は冷静だった。
飼い主がいないのに、生きていても仕方が無い。この先の人生、辛いだけだと考えていた。

「……まもちゃんはこの子達が死んじゃってもいいと思ってるんだ?」

衛の冷たい言葉に、うさぎは酷く傷付き避難の言葉を言い返した。

「この先の事を思うとそう言う考えもあるという事だ」
「まもちゃん、酷いよっっ!!!」
「仕方ないだろ?全員を助ける事は出来ない。心を鬼にしないといけない時だってある」
「仕方なく無い!命はみんな平等だよ?無くしていい命なんて無いよ!」
「知らない動物も気にかけて悲しんでいたらキリがない!」
「まもちゃんには人の心ってものが無いの?」

2人は、価値観の相違から言い争いへと発展して行った。
心優しいうさぎの事も分かるが、いちいち知らない動物にまで感情移入しては辛いだけ。衛はそう感じていたが、うさぎからは心が無いと言われてしまい、絶句した。

確かに衛は、両親を亡くし記憶を無くしてからは人より感情というものを持ち合わせてない無い。それは衛自身でも感じていたが、うさぎと出会い付き合っていく中で人の心を取り戻して行った。そう思っていたが、実際はまだまだだった様だ。
いや、うさぎが感受性豊かすぎるだけだと思うが。

「一般論だよ」
「そこにまもちゃんの心は無いじゃない」
「俺は、大切な人たちが無事ならそれでいい」
「やっぱりまもちゃんは冷たいね。周りの人以外は考えてないなんて……」

大粒の涙を流しながらうさぎは激しく衛の考えを避難する。
こんなにうさぎに否定されて怒られるとは思わず、驚いてしまうが衛とて意見を曲げるつもりは無かった。何も間違った事は言っていないからだ。

「まもちゃんなんて……もう、知らないっっ!!!」

これ以上言っても平行線を辿るだけ。
そして、これ以上続けると取り返しが付かないが、どうする事も出来ない感情に支配されたうさぎは、最後の言葉を言い放ち、衛のマンションを飛び出した。

「うさっ!!!」

名前を呼んだものの、今の自分にはうさぎを追いかける資格もないと感じ、衛はうさぎの後ろ姿を無気質な感情で見送るしかなかった。

「……まもちゃんの、バカ!」

感情のままに衛のマンションを飛び出したうさぎは、後ろを振り返り衛が追ってきているか確認した。
しかし、衛だけでは無く人っ子一人確認出来ず、ガッカリする。

「どうして、追いかけて来てくれないのよ、まもちゃん……」

仲直りのタイミングを無くしたうさぎは失意のどん底に落ちて行った。今までも些細な事でぶつかっては喧嘩をしていた。
でも、すぐに仲直りをしていたが、今回は違っていた。今までで一番大きな喧嘩。
それ故、長引くと多分もう元には戻れない。そうどこかで確信していた。それだけに、追いかけて抱き締めてくれたら。そんな気持ちがあったが、実際は衛は追いかけるという事すら放棄したのだ。

「うっうぇ……」

たった一人の、永遠の恋人とすら分かり合えずすれ違ってしまい、うさぎは苦しくて嗚咽しながら泣きまくった。

「どうして……」

両親を亡くし、それから一人で医者を目指しながら生きてきた衛。人より、誰より残される側の気持ちが分かるはずの衛が、あんな事を言うなんて。ましてや衛は目下大学で医師を目指し邁進中だ。うさぎは信じられなかった。

「誰よりも命の重みを知っている人が、どうして?」

うさぎは、かつて前世でエンディミオンである衛に、生きとし生けるものには寿命があり、必ず死ぬと教えられた事を思い出した。
そして、その通りそれから間もなくエンディミオンは目の前でうさぎの前世であるセレニティを庇って死んでしまった。受け止めきれず、自害してあとを追い、うさぎ自身も死んだ。

それから随分と時が経ち、生まれ変わって戦士となりタキシード仮面として活躍していた衛と恋に落ちた。それが、前世のエンディミオンだとお互い知らずに。

タキシード仮面として敵と戦ってきた事もあり、命の重みは更に分かっているはず。実際、地球をかけた戦いで何度も知らない人達も助け、衛自身も何度も命を落としかけた。
そんな衛からの冷たい言葉の数々に、うさぎは本当にあれは自分が心から愛した人だったのだろうかと不安に押しつぶされそうになる。

「やっぱり、ヒーリング能力で簡単に何でも治せちゃうから、軽く考えてしまうのかな?」

前世の因果で特殊能力が備わっている衛やうさぎ。そのせいで、変わってしまうことがあるのかもしれないとうさぎは考えてしまった。

色々考えながらごちゃごちゃした心で心ここに在らずになり、大号泣のままマンションを飛び出し、道路へと勢い良く飛び出したうさぎ。

注意散漫になっていたからか、いつも以上に緊張感を失ってしまっていたうさぎは、車が来ている事に気付か無かった。そしてーーー



キキィーーーーッッ



ドンッ



大きな交差点に、車が急ブレーキをする音と、うさぎが跳ねられる音が大きく鳴り響いた。

道路の周りにいて目撃した人は悲鳴をあげたり、その場を駆け寄ったり、救急車を呼ぶ様大声を上げたりしていた。
うさぎは、遠くなり薄れ行く意識の中、それらを見聞きしていた。

走馬灯の様に今までの記憶が駆け巡っていくのが遠のく意識の中、見えていた。

「ま、も……ちゃんっっ」

今まで何度も敵と戦いピンチになり、その度に死にかけたが、こうして今日まで何とか元気に生きていた。
しかし、こんな事で意図も簡単に命は無くなるのか?そんな事を考えながら、遂にうさぎは意識を失ってしまった。

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