永遠の花ーMemento Moriー


月野うさぎがセーラームーンだったなんて。
彼女も“幻の銀水晶”を探しているのは知っていたが、何故だと訳を聞くも“ルナが探して守れって言うから”だと知り、驚く。
分からないまま正義の戦士をしていたなんて。普通の少女の彼女が。泣き虫で弱くて、戦う事を怖がっている彼女がどうして……?

俺も普通の高校生ではあるし、幻の銀水晶を探し始めた目的も自身の記憶を取り戻す為と勝手に理由を付けたのだから。そう言った意味ではもしかしたら彼女とそう変わらないのかもしれない。

(助けて!タキシード仮面っっ)

彼女の、セーラームーンであるうさこの助けを求めるシグナルが脳裏に鳴り響いて来る。
うさこは俺が、この手で必ず守る!
タキシードに身を包み、助けに向かう。
どこで戦っているのかは不思議と感じ取ることが出来る。サイコメトリーのこの力によるところが大きいのだろうと考えているがーーー。

「セーラームーン!」

戦場へと着いた俺は、彼女の名を叫ぶ。
見ると正に敵に拘束されて逃れられないセーラー戦士四人が絶体絶命の大ピンチ状態になっていた。
俺は、自身のステッキを使い、セーラームーンを開放してやる。

「ありがとう、タキシード仮面」
「礼は後だ。セーラームーン、とどめを!」
「はい!ムーンヒーリングエスカレーション!」

ムーンスティックを使った技は、月の光を閃光となって敵へと華麗に放たれた。
敵は断末魔を絶叫して、塵一つなく消え去って行った。
敵が死んだ事により、他の拘束されていた戦士も解放されホッとした様子を横目で確認した。

「ありがとうございました、タキシード仮面」
「お礼を言いますわ、タキシード仮面」
「サンキュー、タキシード仮面」

三者三様にそれぞれお礼を言い、去っていった。
俺とセーラームーンに遠慮しているのかもしれない。付き合っているのかはまだ微妙だから怪しいが、俺たちの関係は最早隠しようがないくらい周りにバレバレで、気を使わせているらしい。

「ああ、気をつけて帰ってくれ」
「セーラームーンはあんたに任せるよ。マーズとマーキュリーは私が送って行くよ」

セーラー戦士の中でもかなり強く、ガッツがあり男勝りなジュピターが、マーズとマーキュリーを送る事を買ってでてくれて助かった。

「大丈夫か、セーラームーン?」
「うん、私は大丈夫。ただ……」

珍しくセーラームーンは身体に傷を作って痛いはずなのに弱音を吐いたりしなかった。
頼ってくれないことに少し寂しく残念に思って落ち込みそうになったが、彼女は何やらまだ言いたそうに言葉を途切った事を思い出した。
そして彼女の顔を見ると、下を向いている。その視線の先にある物を見て、俺は“あっ”と驚きの声をあげてしまった。

「お花が……」

下を向いて驚いたのは、戦場になっていたのはコスモスの花畑だった。
一面を見渡すと、ほとんどのコスモスは殺られてしまっていた。それ程の強大な敵で、惨劇である事は火を見るより明らかだった。

「すまない、気付かなくて……」

そして俺も、着地や歩く際に知らず知らずのうちに踏んでしまっていたらしい。

「ううん、助けに来てくれたんだもん。嬉しかった」
「優しいな。この花たちも元に戻さないとな」
「あ、それは私が」

俺の能力で花を再生させようとしたその時、彼女はムーンスティックを再び両手で持ち、力を集中させた。

「ムーンヒーリングエスカレーション!」

彼女のムーンスティックの力でコスモス達は見る見る命を吹き返した。
今しがたまで激戦を強いられ、力を使い果たしたはずの彼女の何処からそんな力が湧きいでて来るのだろう。やはり、不思議な魅力のある子だと感心し、益々彼女にハマって行くのが分かった。

「ありがとう、セーラームーン」
「ううん、私の方こそ助けに来てくれて本当にありがとう」

力を目いっぱい使い、疲れているはずのセーラームーンだが、眩しい笑顔でお礼を言ってくれた。

「君にこれを贈るよ。よく頑張ったな、セーラームーン」

慣れない戦闘に疲れたであろうセーラームーンに、彼女の力で生き返ったコスモスを数本拝借して、プレゼントとして贈った。

「ありがとう、タキシード仮面」
「セーラームーン、君はこのコスモスと同じ様に可憐で美しい。君そのものだよ」
「まぁ、タキシード仮面ってばぁ!」

俺のストレートな愛の言葉にセーラームーンは頬を赤らめて照れながら喜んだ。

「大切にするね。それじゃあ帰ろっか?」

そう言って踵を返して歩き出そうとしたが、セーラームーンは膝からガクッと崩れ落ちた。

「大丈夫か、セーラームーン?」
「ん、ちょっと力を使い切っちゃったみたい。力が出ないよ。後、あちこちがズキズキと痛いよぅ……」

気を張っていたのだろう。それが、コスモスが元通りになった事。そして帰れるとホッとした瞬間、緊張の糸が切れてしまったようだ。

「治してやるから、じっとしてろ」

セーラームーンを座らせ、治癒能力を彼女の傷が出来ているところに施してやる。
見る見るうちに完治し、彼女に体力も戻って来る。

「わぁ、動けるわ!ありがとう、タキシード仮面」

立ち上がったかと思うとぴょんぴょんと飛び跳ねて快気した事を喜んでアピールした。この行動は14歳の少女の等身大に見えて微笑ましい。素直でピュアだ。

「念の為、お姫様抱っこで家の近くまで送って行くよ」

力が回復したとはいえ、先程まで戦っていたのだ。華奢な身体には移動は辛いだろうと気遣った。

「キャッ」
「しっかり捕まって」

お姫様抱っこをすると、セーラームーンは短く悲鳴を上げる。しっかり捕まる様促すと、両手を首に回してきた。
それを合図に俺は大きく飛躍して、夜空に羽ばたき、戦場となったコスモス花畑を後にした。

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