時を超えたプレゼント


二人を包んでいた光が収まり、姿を現す。
見渡すと、近くにはムーンキャッスルが建っていた。

「わーい、月に無事到着!」
「……本当に又、来たんだな」

うさぎと衛が転生して二人で月に来たのはこれで二度目だ。前回はクインメタリアとの戦いが終わった直後。廃墟で何も無い静かなところだったが、完全に滅びる前と同じ姿形になっていた。
そして、それから約二年。二度目の月は、再び繁栄した時と変わらない姿を保っていた。
うさぎはこれで三度目。最初に来た時は廃墟で何もなく静かで、本当に滅んでしまったことが伺えた。だが今はうさぎの銀水晶のお陰か、蘇ったあの日のまま悠然と輝きそびえ立っている。

「本当に温度が快適に保たれているんだな」

月について衛が最初に感じたこと。それは、地球と違い、温度が快適だったことだ。
日本は今は真夏で暑い。
しかし、ここは過ごしやすい。
かと言って半袖だからって寒いと言う感覚も無い。
これもやはり銀水晶の力によるものだろう。

「東京、暑かったもんねぇ~」

うさぎは苦笑いする。
そして当たり前のように何でも無い風にしている。
これが当たり前の日常と言わんばかりに慣れているうさぎを見て、衛はやはりセレニティの生まれ変わりであることを実感する。

「月の地図、貸して」

感動もそこそこにうさぎは衛が持っていた地図を取り上げ、まじまじと見る。

「えっとぉ~、今はここだからぁ……これはあっち、かな?」

月の地図を見たうさぎは、現在地や衛が得た土地の住所を見てブツブツ言いながら歩き始めた。
その様子を見て衛は驚きながらも、後ろからついて行く。

「あ、やっぱりそーだ!こっちを真っ直ぐ行って」

地図を見ながら慣れたようにその方向へと歩いて行くうさぎ。
ここに暮らしていたのはもう何億年も前と言うのに、まるでこの前までここにいたように生き生きと突き進むうさぎに衛はただただ圧倒された。
やはりセレニティとして肌で覚えているのだろうか。兎に角慣れたように迷いなく進んでいく。

「うさ……いや、セレニティ?」

後ろからその様子を見ていた衛。うさぎのはずが、銀髪のお団子のツインテールに、パールのドレス姿。そしてガラスのハイヒールをはいている様に見えた。それは、かつてのセレニティの姿だった。
まさか?と目を擦り、もう一度うさぎを見る。そこには金髪お団子ツインテールに夏服に身をまといミュールを履いている衛の家に来た時の姿が衛の目に映った。

今のは一体何だったのだろうか?
うさぎが再びこの地で生き生きとしているから、セレニティと錯覚したのか?
それとも一瞬、本当に彼女はセレニティとなったのだろうか?セレニティが憑依したのだろうか?
衛には全く分からなかった。

「で、ここを曲がれば」

そう言いながら一人曲がるうさぎ。
その後を慌ててついて行く衛。
そしてーー

「到着!ここだよ、まもちゃん!早く早くぅ~♪」

その場にたち、両手を上げて楽しそうに後を着いてきた衛を笑顔で呼び、手招きする。
月を慣れたように歩く姿も目的地について衛を呼ぶ姿も、まるで動物のうさぎのように飛び跳ねている様だと衛は楽しそうなうさぎの姿を重ね合わせてふと微笑んだ。

「うさ、早いって」

衛の手から地図を取ってからのうさぎの行動は、地球でのどん臭くマイペースなそれではなく、正に動物の兎の様に早かった。
その圧倒的スピードに、衛は反対に亀のように遅くなっていた。
勝手知ったるところと、そうでないところでは互いにこうも違うのかと衛は感心していた。

「まもちゃん、どーしたの?いつもと違って遅いよ?」
「うさが早すぎるんだって」
「そうかなぁ?」

まるでいつもと変わらないと言わんばかりに、訳が分からず頭の上にクエスチョンマークが幾つも飛んでいる様に見える。

「ここが、俺の居住地……」
「そうみたい」

うさぎに案内され到着した土地に足を踏み入れ、感慨深い気分になる衛。

「これで俺も月の住人か……」
「いらっしゃい。そしておめでとう、まもちゃん」
「うさ、ありがとう」

輝く二人の瞳がぶつかる。どちらともなく顔を近づけ、唇と唇が重なり合う。暫しの恋人としての時間。
二人しかいない。文字通り二人だけの空間で、前世では来る事すら許されなかったここで、唇を重ね愛を確かめ合う。

「うさ、愛してる!ずっと、離さない」
「まもちゃん、あたしも大好き」

暫しの口付けの後、衛はうさぎをキツく抱き締め愛の言葉を囁く。
前世では考えられなかったことだが、今ここでそれが出来る事を噛み締め感謝した。そして感慨深いと改めて感じた。

「うさ、宙を見てみろよ」
「え?」

衛は漸く冷静になり、宙を見上げた。星々がとても綺麗に輝いていた。
うさぎも衛に言われた通りに宙を見上げる。

「うわぁ~、きっれーい!」
「綺麗だよな。それにうさ、あの星見てみろよ」

衛はある星を指差す。うさぎもその方向に目線を送る。

「あの一際輝いている三つの星がデネブ、アルタイル、ベガ。夏の大三角だ。ベガが織姫でアルタイルが彦星」
「あの三つがそうなのね!すっごく綺麗」

まさか月で衛と夏の大三角を見る事になるとは思わず、うさぎは美しさに感動する。

「やっと、一緒に見られたな」
「え?」
「去年、約束したろ?」
「七夕の日に雨降って天の川見られなかった代わりに、晴れている時に見られる夏の大三角見ようって言ってたろ?」
「言ってたね!でも、まもちゃん勉強合宿行っちゃうんだもん!一緒に見られなくて、残念だったんだよ」
「ごめんな。でも、頑張って祝いに来てくれて嬉しかったよ」
「そりゃあ、この世で一番愛する恋人の誕生日を祝いたかったから、無い知恵絞って頑張ったんだよ」

一年前。うさぎの誕生日から不運続きだった二人。していた約束も、すっかり忘れていたが、ゆっくり過ごせる今回の衛の誕生日に漸く約束は果たされた。

「あっ!」
「どうした、うさ?」

突然うさぎが絶叫し、衛は驚いた。

「去年の天の川も、ここで見れば良かったんじゃ……」
「え?」

うさぎの突然の発言に、衛は戸惑う。

「だって、月には天候は無いのよ?雨なんか全く降らないし、東京と違って明るくないから天の川を見るのには条件はいいんじゃないかな?」
「確かに、言われてみればその通りだ」
「でしょ?どーして今まで気づかなかったんだろ……」

何故今まで月に来ると言う発想にならなかったのかとうさぎは衝撃を受けた。
そうだ。ここから地球を見るのも好きだったが、同じくらい星も綺麗に見えるからいつも眺めていた事をうさぎは思い出した。
今まで忘れていた事が今となっては不思議なくらいだ。

「これからは七夕や大切な日に天候悪かったらここに来れば良いね」
「ああ、そうだな」
「ね、まもちゃん?」
「ん?」
「せっかくだから月でデートしない?」
「それ、良いな♪」

うさぎの提案で月でデートする事になった。

4/5ページ
スキ