時を超えたプレゼント


そして、待ちに待った衛の誕生日当日。うさぎは作ったケーキとプレゼントを持って家を出た。
衛の家の前に立ち、呼び鈴を鳴らす。奥の方からスリッパの音がパタパタと聞こえて来た。はーいと言う声とともにドアが開く。

「まもちゃん、来たよ」
「うさ、いらっしゃい」

衛が出てきて、上がってと言われたうさぎはお邪魔しますと言いながら慣れたように準備されていた自分専用のうさぎ柄のスリッパを履いて衛の家へと上がって行く。

「暑かったろ?飲み物用意するから適当に座って待ってろ」
「ありがとう、まもちゃん」

衛に言われ、リビングのいつもの定位置のソファーへと腰掛けるうさぎ。
衛の言う通り、真夏の真昼間の外は暑い。容赦なく照り付ける太陽。灼熱のアスファルトをここまで歩いて来たのだ。幾ら涼しい格好、素足にミュールと言う出で立ちでも暑いものは暑い。

「まもちゃんち、クーラー効いてて涼しい」

天国だとうさぎは涼しさにホッとした。

「マンションの七階だからな。夏はクーラー必須だ。一日中かけてるよ」

うさぎの分のジュースを持ってきてローテーブルに置きつつ、そう話す衛。ナチュラルにうさぎの横に座る。
ありがとうと言いながらうさぎは衛が用意してくれたジュースをグビグビと美味しそうに飲む。

「ぷはぁー、生き返ったぁ~。そだ!お花買って来たんだ。仏壇にお供えと手、合わせてもいいかな?」
「ああ、気を使わせてしまってすまない」
「ううん、あたしがやりたかったから気にしないで」

衛の誕生日のこの日は、衛の両親の命日である。
衛は朝の涼しい時間帯に一人で両親の墓参りに行っていて、うさぎとの約束は午後からゆっくりとと言う事になっていた。
うさぎは一緒に行くと言ったが、大丈夫だとやんわり断られた。その代わりと言う訳では無いが、衛の家に来る途中に花屋によって仏壇に飾る花を適当に見繕ってきた。

「朝はご両親のお墓参り、して来たんだよね?」
「ああ、ゆっくり話したよ」
「今度は一緒に連れて行ってね。お墓に手を合わせて挨拶したいから」

今年は、久しぶりに命日に両親の墓参りと言う事で衛は一人で行くと決めていた。うさぎも同行したかったのだが、それならば仕方ないと諦めた。
しかし、恋人であるのに同行出来ないこと。そして、頼って貰えないことに少し寂しく思っていた。
それに、彼女としておつき合いの挨拶をしたかったのだ。

「でも、楽しいもんじゃないぞ?」
「そんなの分かってるよ!あたしがこの日はまもちゃんの傍に寄り添いたいし、ご両親にお付き合いの挨拶もしたいの」

いつもは笑顔で幼い顔のうさぎだが、真剣な眼差しでどこか大人びた顔で真っ直ぐと自身の考えを主張して来る。そんな顔でお願いされたら、衛も折れざるを得なかった。

「分かったよ。うさにはやっぱりかなわないよ」

参ったなとポリポリと頭を掻きながら快諾する衛。その言葉を聞いたうさぎは見る見るうちに明るい顔になり、笑顔になる。

「ありがとう、まもちゃん」

両親の墓参りに一緒に行ける事になったうさぎは、軽快にテキパキと仏壇の方へ行くと花瓶を取り、ダイニングで水を汲んで花を生けて元に戻し、仏壇の前に正座して手を合わせる。


「さて、まもちゃんの誕生日本番!ケーキ作って来たからローソク立てよ?」

長い時間手を合わせた後、満足したうさぎは本番の衛の誕生日に持ってきたケーキを用意しようと立とうとしたその時だった。


ドテッ


「足が痺れたぁ~(涙)」
「ったく、うさらしいと言うか。最早お約束だな」

長い時間正座していたうさぎは足が痺れ、盛大に転けてしまう。衛が言う様に、最早お約束である。呆れてため息を着く衛だが、手を差し伸べてうさぎを起こしてやる。

「えへへぇ〜、ごめん。ありがとう、まもちゃん」
「気を付けろよ」
「面目ない」

気を取り直してうさぎはケーキを取り出し、ロウソクを立てようとウキウキし出す。

「ジャーン!見た目はアレだけど、ママに手伝って貰ったから味は保証するよ♪まもちゃんの大好きなホールのチョコケーキ♡」
「本当だ、美味そう。だけど、うさ?ロウソク、本当に立てるのか?」

ケーキは衛の好きなチョコケーキ。うさぎが言う通り、見た目は歪だったが普通に美味しそうだ。母親の育子が手伝ったのも安心要素だ。
ただ、ロウソクを立てると言うのは衛にとって恥ずかしく、気が進まない。

「立てるよ!」
「俺、もう19だぜ?」
「何歳だってカンケーないよ!今までそういう事もしてこなかったでしょ?だから、して欲しいの」

6歳で両親を亡くし、記憶もなくして天涯孤独の人生だった衛。普通の子が経験する事を出来ずにここまで来た衛をうさぎが放っておく事は出来なかった。
幼少期に両親にやって貰って経験しているかもしれないが、六歳以前の記憶をなくしてしまっている衛には残念ながら全く覚えていない。
失ってしまった記憶は仕方がないと諦めている。ならばこれからの未来を大切にしようと衛は未来に期待していた。
そう思う様になったのもうさぎと言う愛しの恋人の存在が大きい。

「うさ……」

そういう所、適わないよなと衛は胸が熱くなるのを感じていた。

「さて、出来た!」
「ちゃんと19本あるんだな……」

うさぎがホールケーキに立てたロウソクの数を数えて苦笑いしつつ絶句する衛。
予め用意していたチャッカマンでロウソクに火をつけるうさぎ。

「ハッピバースデートゥーユー」

19本全てに火をつけると、うさぎが定番のバースデーソングを軽快に歌い始める。

「ハッピバースデーディア まもちゃん♪

ハッピバースデートゥーユー♪

キャーーー!まもちゃん、誕生日おめでとう~~~~~♡」

「うさ、ありがとう」
「さ、ローソク吹いて吹いてぇ~~~」
「じゃあ、行くぞ!フゥーっ」

うさぎに促されるままに衛はロウソクに息を勢いよく消す。

「ロウソク、初めて吹いたけど結構肺活量いるんだな」
「19本だもんね。お疲れ様」
「そうか、少ないとましなんだな」

吹き終わったロウソクを撤収するうさぎ。

「さて、食べよっか!」
「ああ、皿とフォーク持ってくるよ。後、飲み物。うさは紅茶でいいか?」
「うん、ありがとう。あたし、ケーキ切るね。包丁貸して」
「はい。手、切るなよ?」
「もう!まもちゃんのいじわるぅ~」

そんなやり取りをしながら、ケーキを食べる為の用意をする衛とうさぎ。

「はい、まもちゃんの分」
「サンキュー。これ、うさの紅茶」
「ありがとう」
「いただきます」

リビングのローテーブルに衛の分とうさぎの分の飲み物とケーキを用意し、二人はケーキにありついた。

「うん、美味い」
「美味しい」

あっという間にケーキを完食する二人。

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