誕生日に向けて
浅沼の話によると夕飯時に長めの自由時間があるらしく、そこが狙い目との事だった。
一緒に夕飯を、と言うわけにもいかず近場で一人適当に済ましてその時を待つうさぎ。
「ムーンパワー 頭がいい元麻布高校のイケメンになぁれ♪」
誰もいないことを確認し、予め変装ペンで男装してスタンバイ。
一方、勉強合宿の中へ入っていった浅沼はクラスメイトと合流し、授業を受けていた。
人がいっぱいいて広い建物の為、衛を探すのは至難の業だと授業を受けながらいい方法は無いかと頭をフル回転していた。
だが、無情にも明暗が閃く事無く夕食の時間が来てしまった。
上手く行けば会えるかもしれないと期待はせずに食堂へ向かう。
一応全体を見渡して衛がいるか確認する。
イケメンでオーラが半端じゃないから大勢でもすぐ分かると浅沼は自負していた。
そして、その通り、奥の方の机にいた。
「衛先輩!」
都合のいい事に1人で座っていたから早速一緒しようと思い、移動して話しかける。
「あさ、ぬま?来てたのか?」
「ええ、途中参加ですが……」
「そうか、熱心だな」
「いえ、衛先輩の誕生日祝いたくて!今日、お誕生日ですよね?おめでとうございます」
誕生日の祝いの言葉と用意していたプレゼントをあげると驚きつつも喜んでくれた。
「ありがとう、浅沼」
喜んだ後、少し顔が曇ってくる衛の表情を見て浅沼は察して言葉を続けた。
「うさぎ先輩に貰いたかったですか?」
「え?ああ、いや……」
「隠さなくてもいいですよ!衛先輩がうさぎ先輩大好きなの知ってますから」
「すまない浅沼。うさに会いたくなってしまったよ」
「そんな素直な衛先輩に朗報があります!うさぎ先輩がここまで会いに来てますよ?」
「何言ってんだよ!いくら何でもうさがここまで来られるわけないだろ?」
「それが来られるんですよ~♪僕が何故今日だけ参加か、頭のいい衛先輩ならすぐ解けますよね?」
「まさか、浅沼がここまで連れて来てくれた、のか?」
「そのまさかです♪」
信じられないと言う顔をする衛。
だが、無謀な事をするのがうさぎだ。
それに浅沼が自分に嘘などつかない奴だと言う事も分かっていた。
「うさは何処にいるんだ?まさか中に入ってないよな?」
中は勉強ばかりして飢えた男ばかりの危険な場所だ。そんな所にうさぎが1人でいたらどうなるか?考えただけでも恐ろしかった。
「大丈夫です!外で待ってますよ。念の為男装するって言ってましたけど」
言い終わるが早いか、衛は慌てて食堂を出ていってしまった。
「全く、衛先輩はうさぎ先輩の事になると何も周りが見えなくなるんだもんなぁ……」
まるで手のかかる弟の世話をしてる様な言い方をしながら優しく見守る兄のように笑顔で見守る浅沼。
そんな浅沼には全く関心を持たない衛ははやる気持ちを抑えきれず脱兎のごとく外へと飛び出した。
「うさっ!」
勉強合宿の寮周辺をキョロキョロすると不安そうな顔で寮の中を覗き込んでいる元麻布高校の制服を着た綺麗な金色の短髪姿のメンズがいた。ーー男装しているうさぎだ。
男装していても衛は愛の力ですぐに分かった。
「まもちゃん!」
衛の呼ぶ声に気づいたうさぎは勢いよく返事をするが、少し声が低く若干声変わりしていた。違和感を感じたものの衛と会えた嬉しさの方が勝ち、そのまま衛の胸へと飛び込む。
「まもちゃん、会いたかった」
「俺もだよ、うさ」
2人ともきつく抱きしめあった。
「でも、どうしてここまで……?」
「今日誕生日でしょ?やっぱり直接祝いたくて」
「それでこんな無茶を……」
うさぎの優しさに心が温まる衛。
「まもちゃん、お誕生日おめでとう♪」
「ありがとう、うさ」
2日ぶりにあった2人はどちらともなく口付けを交わす。
野郎連中の中でガツガツ勉強していた衛は飢えすぎていて、止まらなくなり、男装と言う事を忘れ、深く求め、長くなっていた。
「んっはぁ……」
漸く離されるとうさぎは久しぶりの衛との深い口付けに頭がボーッとしていた。
「まもちゃん、これ私からのプレゼント。勉強、頑張ってね♪」
「ありがとう、うさ。大切にするよ」
中身を開けると衛の誕生石のペリドットであしらったネックレスだった。
「まもちゃんに似合うと思って♪私もこの前の誕生日にネックレス貰ったから、お返しだよ♪お揃い♡なんちゃって♡」
「ああ、お揃いだな♪」
また見つめ合ってキスしようとしていたら遠くで衛を呼ぶ声が聞こえてきて現実に戻される。
「衛先輩!……ってあ、ごめんなさい。邪魔しちゃいましたね」
「いや、大丈夫だ。どうした浅沼?」
「そろそろ時間ですよ」
「ああ、すぐ行くよ」
自由時間の終わりが近づいてきたようで浅沼が呼びに来てくれた。
「ごめん、うさ。せっかく来てくれたのにゆっくり出来なくて」
「ううん、私が勝手に来たんだもん!気にせず戻って」
やはりいつでもうさぎは優しいなと衛は心が傷んだ。うさぎの優しさにいつも甘えてしまう己が嫌だったが、仕方の無い事だった。
「すまない。1人で帰れるか?」
「銀水晶でひとっ飛びしちゃう笑」
「こらこら、ルナが聞いたら怒るぞ。でもまぁ今回は仕方ないな笑」
「もう既に変装ペンを私利私欲の為に使っちゃってるから遅いかも。こうなりゃとことんやるわ!」
「俺も帰ったら一緒にルナに怒られてやるよ」
「大丈夫よ、まもちゃん!私、怒られ慣れてるから」
「どんな慣れだよ……」
色んなことで日々ルナから説教されているうさぎは怒られる事に慣れてしまっていた。
「じゃあな、うさ。気をつけて帰れよ!」
「うん、残りの勉強合宿頑張ってね!」
そうして名残惜しくも衛は合宿の寮へと戻って行った。
それをうさぎは見送り、自身も帰ろうと銀水晶が入った変身ブローチをとる。
「ムーンコズミックパワーメイクアップ!」
変身と共に転移をし、自宅付近に戻り、セーラームーンの変身を解除して自宅に帰った。既に20時近くになっていた。
長い外出を怪しんだちびうさに事情を問い詰められ、衛に会いに行ったことを白状させられたうさぎは、ルナではなくちびうさに正座させられ説教されたのだった。
夏の大三角は一緒に見る事は叶わなかったが、忘れられないある意味色々濃い1日になった。
おわり
2021年の地場衛生誕祭用に旧サイトに載せた話です