誕生日に向けて
そして衛の誕生日当日がやってきた。
少々遠いが、狙い目は夕飯時なので昼の待ち合わせだったので割とゆっくりとした朝をすごしていた。
と言うかうさぎは完全に寝坊していた。
衛と3日ぶりに会える事と、付き合って初めての誕生日に興奮して眠れず、昼前まで寝てしまっていた。
待ち合わせを昼にしておいて良かったとうさぎは心底ホッとした。
「ごめん、浅沼くん待った?」
「いえ、俺も今来たとこっす!」
待ち合わせ場所に少し遅れて到着したうさぎは浅沼に謝るとまるでカップルかと美奈子がこの場にいればツッコミが入りそうな定番会話になってしまう。
話しながら歩みを止めることなく電車に乗り、目的地へと向かう。
もうここからは完全に浅沼頼りである。
「ごめんね、付き合って貰っちゃって……」
「全然ですよ!俺も衛先輩祝いたいっすから」
「浅沼くんは本っ当にまもちゃんの事大好きなんだね!」
「大好きって……いや、まぁすっげぇ尊敬してます!」
「ありがとね、まもちゃんの事慕ってくれて♪」
「いやぁ、そんな……」
衛が浅沼にどこまで自身の過去を打ち明けているかは分からないが、うさぎは単純に大好きな衛を慕ってくれる浅沼にとても感謝した。
同性で心許せる存在がいる事がうさぎは嬉しかった。
自分には相談出来る相手が身近に何人もいるが、衛にはかつてのような相手はもうこの世にいない。それは少し引け目や申し訳なさを感じるところだった。
道中、衛の他愛も無い話で盛り上がりながら目的地へと向かっていった。
電車の乗り換えは当たり前で、バスにも乗り換え。乗り換えに継ぐ乗り換え。複雑な乗り換えにうさぎは心底浅沼が着いてきてくれて良かったとホッとした。
自分では絶対に辿り着けないくらい複雑なルートに既に迷子状態に陥っていた。
「ところでうさぎ先輩は女性ですけど、どうやって侵入するつもりなんですか?」
浅沼の単純な好奇心と疑問だった。
うさぎは痛い所を付かれ、言葉に詰まる。
勿論、変装ペンで男装になんて非科学的な事を普通の人間の浅沼に言えるわけなかった。
「う、うん。男装しようと思って着替え持ってきたんだ!」
説得力が無さそうな余り大荷物とは言い難いバッグをこれ見よがしに見せる。
その中にはプレゼントは勿論、もしもの為の変身ブローチ、財布に携帯、化粧品に下着、そして本日の主役、変装ペンが入っていた。
「男子校だから当然野郎ばかりなんで気づかれないように細心の注意を払って下さいね!俺と衛先輩だけでは無理がありますから……」
申し訳なさそうに厳しい現実を突きつけてくる。
「色々とごめんね……。ちゃんと完璧な変装して迷惑かけないようにするから」
変装ペンがあれば完璧な男装が可能だから自分が下手しなければ大丈夫だろうとうさぎは考えていた。
ただ自他ともに認めるおっちょこちょい。
不安がないといえば嘘になる。
ヘマをしないとは限らない。
寧ろ、人がしない考えられない様な失敗をする、それがうさぎだった。
この後のことを不安に思いながらも長旅の末、目的地に何とか到着した。
「ここですね」
「ここかぁ~」
1時半に待ち合わせて4時近くになっていた。
上手く乗り合わせられなかったりしたので2時間以上かかっていて、まぁまぁの移動時間だった。
帰りもこの位かかるかと思うとうんざりだった。
「浅沼くんはどうするの?」
「俺は参加してもいいかなと思ってます。中学生は自由なんですけど、高校になれば参加必須なのでどんな雰囲気か見ておこうかと」
「流石、凄いねぇ~」
「俺は全然不真面目な方ですよ。クラスメイト何人かは入学してからずっと参加してますから」
進学校とはよく言ったもんで、みんな中学生の時から真面目に勉学に励んでいる事を聞かされ、うさぎは雲の上の話だとうんざりした。
と同時に衛もまた中学時代から真面目に勉学に励んで来たのかと尊敬していた。
「俺、先に中に入って会えたら衛先輩に伝えますよ?」
「本当に?助かるぅ~♪お願いします!浅沼くん、頼りにしてます!」
「任せて下さい!じゃあ行ってきます!」
「頑張って!」
「うさぎ先輩も、頑張ってください!」
そう言って浅沼は勉強合宿と言うなの戦場へと入っていった。
それを複雑な表情でうさぎは見送った。