誕生日に向けて


そしてあっという間に夏休みになり、衛が勉強合宿に行く日になった。
出発は朝早くの為、朝が弱いうさぎは寝坊確実だと予想して前日に見送っていた。
朝目覚めたうさぎは、衛がいない、会えない5日間の始まりにやる気を完全に無くしていた。
当然、勉強は手付かずだ。
梅雨も明けて本格的に夏が来て暑く、ただでさえ勉強なんてやる気が出ない。

ただ、うさぎは来たる3日に衛と会うことを諦めていた訳では無い。
ずっとどうすれば会うことが可能なのか、それだけは常に頭を回転させてきた。
だが、この日まで全くいい案が浮かばず積んでいた。

しかし、ここでうさぎは苦肉の策を閃いた!
自分が会いに行けば良いのでは?と。
でも合宿の場所が分からない。
どうすれば良いか、今度こそどんずまりになる。
そしてまたここで1つ、自分を救ってくれるかもしれない人物の事を急に思いつく。衛の後輩の浅沼一等だ。
浅沼は衛の後輩で、とても尊敬して慕っている。もしかしたら合宿の場所を知っているかもしれない。
寧ろ、誕生日を知っていてプレゼントを渡しに行く可能性がありそうだ。彼はそういう事をしそうな子だった。衛の専属ストーカーと言ってもいい。

しかし、またここでうさぎは為す術を失う。
肝心の浅沼の連絡先を知らないのだ。
学校は休みだから行ったところでクラブで出て来ていて会えると言う確率は少ない。それこそ一か八かの勝負だ。
どうしようと考えを巡らす。
そしてフッとまことと親しかったことを思い出す。

「もしもし、まこちゃん?うさぎだよ」
「うさぎ、どうした?」
「教えて欲しい事があって電話したんだ」
「何だい?分かることなら何でも答えるよ!……勉強は無理だけど」
「勉強は大丈夫だよ。する気になれなくてしてないから……」

自分に今一番最高な答えをくれそうな恋多き女、まことに早速うさぎは電話を入れる。
勉強の話になるが、2人とも苦笑いで終始した。亜美がこれを聞いていたらきっと怒るだろうが、いないのが不幸中の幸いだった。

「だよな……。で、教えて欲しい事って?」
「うん、あのね?浅沼くんの連絡先知らない?まこちゃん、浅沼くんと仲良かったよね?」
「ああ、浅沼ちゃんの連絡先なら知ってるよ」
「本当に?良かったぁ~ありがとう、まこちゃん!大好き♪」

案の定、浅沼の連絡先を知っていたまことから番号を教えて貰ったうさぎはお礼を言って電話を切った。
今回はたまたまトントン拍子に行って運が良かっただけで、いつもこんなに上手くは行かないだろう。決して当たり前なことでは無い。うさぎは感謝してもしきれない気持ちだった。
そしてそのまま浅沼に連絡をする事にした。

「はい、浅沼です」
「浅沼くん?まもちゃんの彼女のうさぎです」
「う、う、うさぎ先輩?え?何で家の番号を?……てか衛先輩に何かあったんですか?」

まさか自分の家にうさぎから連絡来るとは思ってもみなかった浅沼は、予想外の人からの連絡に動揺しまくっていた。
うさぎがかけてくる用事と言えば衛の事である。大好きで尊敬している先輩に何かあったのではないかと心配になる。

「あ、ううん違うの!ごめんね、急にかけて……。びっくりさせちゃったね。まこちゃんから勝手に連絡先教えて貰っちゃって、かけたの」

浅沼の動揺を電話越しに察知したうさぎは驚かせた事に申し訳なく思い謝った。

「いえ、こちらこそ驚きすぎてすみません。そうだったんですね。どうしたんですか?」
「うん、あのね?まもちゃんの合宿先に行きたいんだけど、場所分かるかなって思って……」
「知ってますけど、まぁまぁ遠いですよ?」「本当に?遠くても行きたいの!教えて欲しいんだけど」
「すぐに帰ってくるのに、行くんですか?」
「明後日、まもちゃんの誕生日だから直接会って祝いたくて……」
「そうでした!3日、衛先輩の誕生日!僕も行こうかな?案内しますよ?」
「本当に?助かる!ありがとう、浅沼くん」
「いえ、勿論、2人の邪魔はしないので」

浅沼も衛の誕生日を直接祝いたいと思っていたのか、案内を買って出てくてうさぎはホッと一安心した。
そして2人は衛の誕生日当日に駅で待ち合わせをする約束をして電話を終了させた。

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