星合いの二人、願いを込めて
うさと付き合って初めての七夕。
俺は過去に七夕に対して冷めていたことを日々襲ってくる敵との激しい戦いの中ですっかり忘れていた。
勉強が大嫌いなうさは育子ママの怒りを買ってしまい、受験生である中学3年なのに散々な成績を中間テストでたたき出していて会えるか会えないかの瀬戸際だった。しかし、無事にテストをクリアして七夕に会える事になった。
うさの誕生日にもサプライズで会えたけど、織姫と彦星並に会っていなかった様に会える事がとても楽しみだった。
しかしそんな想いとは裏腹に梅雨真っ只中の空はやはりどんより曇りだった。
うさはこの日、期末テストが終わり学校も昼までで終わっていた。
俺も期末テストだが中学時代とは違い科目が多い為、まだ後一日ある。
うさとは違い進学校だが毎日勉強している為、テスト前と言っても慌ててやる必要がない。だからうさと会えない日にうさと気持ちをひとつにするため、俺もうさが勉強している時間に勉強していた。
そうでもしないと寂しくなってろくな方向に行かないから、気を紛らわすには丁度良かった。最もこんな事をうさに言うと信じられないとか言いそうだから言わないが……。
昼一番で俺のマンションへとやって来たうさはベランダへと出てそんな曇り空を見上げていた。
「やっぱり天気悪いね……」
「晴れて欲しかった?」
「そりゃあねぇ~、だって天の川見たかったんだもん!」
「晴れてても天の川はほとんど肉眼では見えないぞ」
「え?嘘?何で?織姫と彦星逢えないじゃん!酷いよ……」
天の川が見えると思っていたうさは現実を受け入れず目に見えて落ち込んでしまう。
「光害で確認出来ないらしい。その為、見られる地域は少ないんだ。東京なんてこんな灯りまみれで絶対、見られないぞ」
「そうなんだ……残念!すっごく綺麗なのかなって思ってたから都会じゃ見られないなんて……うぅ」
「そう落ち込むな、うさ。夏の大三角なら見られると思うぞ」
「何それ?」
「知らないのか?理科の授業で習ったろ?」
「……習ったかなぁ?全然覚えてないや」
まぁうさはそうだろうな?ちゃんと授業を受けていたら今日まで地獄の勉強をしていないからな。
「夏の大三角ってのは夏に一際輝く3つの星を指してて、それぞれ名前がアルタイル、ベガ、デネブと呼ばれててアルタイルが彦星でベガが織姫星を指してるんだ。七夕のシンボルだけど雨季だから8月上旬の20~22時に真東の方角が最適な観測時期なんだ」
「……って事はやっぱり晴れても今日は見れないかもしれないってこと?」
「7月上旬から見られるから晴れればチャンスはあるよ」
「わぁ~、じゃあ晴れるように祈らなきゃ!」
夏の大三角なら見られるチャンスがあると分かると沈んでいたうさは水を得た魚の様に浮上して浮き足立っている。
「晴れたら織姫と彦星も逢えるもんね!天の川が見れなくでも2人は逢えるよね」
「そうだな。天の川も増水しなくて済むし、逢えるな」
「天の川って増水するの?」
「ああ、川だからなぁ。増水すると渡れないし逢うのは難しくなるな」
「一年に一回しか逢えないのに雨降るとやっぱり逢えないなんて……酷いよ!きっと楽しみにしてるはずなのに……」
「そうだな。結局逢えない様にしてたのかもしれないな……」
「天帝の怒りに触れてしまったばっかりに、悲しい……」
そう言ってうさの目からは一筋の涙が流れ落ちた。
七夕伝説の2人を想い寄り添って涙を流せるうさはやはり優しいと思った。
俺はずっとこの七夕伝説を嫌って目を背けて生きてきた。大違いだと感じた。
そんなうさをそっと優しく抱きしめた。
「うさ、元気を出して。ただの伝説だよ」
「違うの!私、前世の事を思い出してたの……」
そう言ってうさは織姫と彦星を前世の俺たちと重ね合わせて悲しくなったと語り出した。
確かに俺たちは前世では神の掟に背き愛し合っていた。それが原因かどうかは分からないが地球の民達が月に恨みを持ってしまい、月に攻めて行き、結果、月も地球も滅びてしまった。
そんな自分達の過去と織姫と彦星の話は不思議とリンクするものが多い。
違うといえば違うのだが、重ね合わさずにはいられないほどの偶然の一致。
「私ね、小さい頃からこの話を聞くと胸が苦しくて、悲しくて泣いてたんだ……」
その度、周りの人達からは感受性豊かで心優しい女の子だと言われ続け、うさ自身も感受性豊かなのだとそのまま受け入れていたという。
しかし、去年プリンセス・セレニティとして覚醒し、前世の記憶を取り戻して違うと気づいたとうさは話してくれた。
「きっと前世の事を潜在的に心のどこかにあったんだな」
「多分、それで知らず知らずのうちに重ね合わせて切ない気持ちになってたんだと思う」
「でも俺たちは織姫と彦星とは全く違うよ」
「うん、違ってた」
織姫と彦星は親公認で愛し合った結果、周りが見えなくなりすぎて天帝の怒りを買い、理不尽にも引き裂かれ、年二一度しか逢えない様になった。それも雨季の時だから逢えるのは一か八か……。