星合いの二人、願いを込めて
まだ幼い衛はこの時期になるといつもとても憂鬱になる。
織女と牽牛の七夕伝説を初めて聞いた時から何故だかとても胸が締め付けられる想いがした。
天帝の怒りを買った2人は天の川銀河を隔てて離れ離れになり、一年に1度しか会えない。
しかもこの時期は雨季で天の川は水で溢れてしまい、その年に一度のチャンスも水の泡になって会えない事が多いという。
そんな悲しい話なのに周りの人達は七夕の歌を歌いながら願い事を書いた短冊を笹に吊るす。ーー織姫と彦星の想いなど全くお構い無しに。
衛の両親、特に母親も同じでどこかで手に入れてきた笹に歌いながら短冊を吊るしている。
「織姫と彦星、可哀想……」
「え?」
「一年に1回しか逢えないんだもん!」
「そうねぇ……」
毎年決まって織姫と彦星の心に寄り添う衛に、少し戸惑いながらも感受性豊かで、人の心が理解出来る優しい子だと思っていた。
「何とかならなかったのかな?」
「どういう事?」
「えっとね?他に無かったのかなって……一年に一回なんて少ないと思うんだ。もっと会わせてあげられなかったのかなって思って……」
「そう、ねぇ……神の怒りに触れちゃったからこれが一番2人にとっての罰で一番良かったからかも知れないわね」
「だけど好き同士の2人を離すなんて酷いよ!」
そう言いながら激しく泣いてしまった。
普段は明るく活発でほとんど泣く事がない衛は溢れ出す涙を止められない。
織姫と彦星の事を考えると何故かとても胸が痛い。胸が苦しく、切ない気持ちになる。
だけど周りは誰も七夕伝説に心痛めたりしていない。それがとても不思議だった。
自分だけがおかしいのだと幼いながら周りと違うことを変に思った。
どうしてこの2人にこんなに感情移入しているんだろうと分からず戸惑っていた。
その為、周りの人達の様に七夕を心から楽しめないでいた。
けれど、5歳になるその年に自分以外も同じ思いの子が現れる。ーー幼なじみのうさぎだ。
ある日、うさぎの家に遊びに行った時、彼女は大量にてるてる坊主を作っていた。
どうしてこんなに作っているのか、単純に疑問になり聞いてみると意外な答えが返ってきた。
「織姫と彦星が無事に会えるようにっていっぱい作ったの。一年に一回会える日がいつも雨なんて可哀想だもん……」
そう言い終わるが早いかうさぎは大泣きしてしまう。
どうしたらいいか分からず狼狽えながらも衛はうさぎをギュッと抱きしめてあげる。
うさぎの悲しさや、自分と同じ想いの子がいた事、そして2人を想い泣いている優しいうさぎにつられて衛も泣いてしまった。
同じ事で心を痛め、涙を流すうさぎに衛の心は救われる気がした。
「ひっく、うぇぇぇん、苦しいよぉ……」
「うっ!悲しいね?」
「うん、つらいよぉ……」
「うさちゃんも七夕の話で悲しくなるんだね?」
「うん、まもたんも?」
「うん、ここがギューってされてるみたいに苦しくなるんだ……」
「おんなじだね!」
しかし2人とも何故こんなにも七夕伝説に敏感に心を痛めて胸が苦しく、涙が溢れてくるのか、幼いふたりには全く分からなかった。
そしてそのまま分からないまま、残酷に衛とうさぎは6歳と3歳の時、運命のイタズラに2人は引き裂かれてしまった。
2人がこの胸の痛みの意味を思い出し、理解出来るようになるのはそれから10年以上あとの事ーー。