原作まもうさSSログ

 ある日の学校帰り。うさこと隣、並んで歩く。手と手を絡ませ、恋人繋ぎ。お互い制服で。放課後デートって奴だ。
 やっと付き合い始めて数日。お互い、このスタイルに照れつつも慣れてきた頃。うさこが何気なく呟いた一言に、ハッと息を呑んだ。

「えへへ~。あたし達、本当に堂々と付き合ってるんだね」

 笑顔で幸せそうにほほえむうさこ。周りを見渡すと、人が行き交う。向かいから来る人々とすれ違う。後ろから追い越される。
 子供や大人。私服だったり、制服だったり。スーツを着たサラリーマンや、スポーツウェアを着た人。友達や恋人、家族。この世界では当たり前の風景が広がる。
 それを見ているうさこは満足そうにそう呟いた。

「ああ、そうだな」
「人目を気にせず、こんな真っ昼間からまもちゃんとデート出来るなんて。本当にあたしは幸せ者だ」

 堂々とデートなんて、本来は当たり前の事だ。
 だが、俺達にとってはこれが当たり前ではない。幸せな事であるのは前世での絶対的な掟を破り、逢っていたから。
 地球と月。全く違う土地に生まれた俺達。月と地球は交わってはいけない。それが神からの絶対的な掟。それを破ることは禁忌。
 しかし、互いの国の王子と姫であった俺達は、率先してその掟を破り、恋をした。
 本来、会うことすら赦されない。それ故に、人目を気にして、人のいない場所で逢瀬を繰り返していた。
 人目を気にして地球で逢瀬を繰り返す日々。月の王国の証である額の三日月の印を隠し、顔を下に向けて歩く日々。ただ住む世界が違う。種族が違うというだけでーー。
 プリンセスであった頃も、人が好きだった彼女。本当は堂々と地球を色々見て、人に触れてみたかっただろう。

「もう、人目を気にする必要、ないんだね?」
「ああ。同じ地球に、同じ学生で普通の人間だからな」
「そうだね。すれ違う人達にあたし達はどう映ってるんだろう。ちゃんと恋人に見えてるかな?」
「何処からどう見ても、恋人だろ?」
「えへへ~、そうだね」

 手を繋ぎ、見つめ合い微笑み合う。誰がどう見ても恋人だと思う。でなければ、一体どう映るというのか?

「俺達、今度こそ幸せに為るためにこの世に生まれたんだ。うさこもクイーンも言ってたろ?」
「うん。それが、あの日死んでしまったエンディミオンとセレニティへの償い。そして、願いでもあるの」

 禁忌を侵している以上、何をどうあがいても一緒になることも、幸せもない未来。何度絶望したことだろうか?何度、同じ場所、同じ立場で自由であればよかったと呪った事か。

「エンディミオンもセレニティも、祝福して応援してくれて喜んでくれるだろう」
「そうだといいな」

 二人が俺達を見たら、どう想い、どう感じるだろうか。羨ましがるだろうか。それとも嫉妬か。嫉妬も羨ましいと思う程、うさことずっと幸せになる。幸せにしてやる。
 そんな事を決意した、放課後デートだった。




おわり

20230612 恋人の日

19/33ページ
スキ