陽のあたる場所


翌日、俺は六時に目が覚めた。
メタリアとの戦いから数日。平和を取り戻し、初めての休日だった。
戦いが終わったあの日、うさこを家まで送ったり、学校に登校する前や放課後に少し会うということはしていた。
しかし、デートらしいデートはこれが初めてだった。

支度をしていつも会う公園へ向かう。
ここからまたうさぎと新しい関係を築く。そう考えると身が引き締まる思いだった。
待ち合わせは11時だが、待ち遠しくて早めに着いてしまった。
30分程待っていると、遠くの方から甲高い声がして持ってきて読んでいた本から目を逸らし、声の方へと向くと、うさこは走ってこちらへと向かって来た。

「ごめーん。待った?」

遅れてきた時の定番のセリフを口にしながら、息を切らして申し訳なさそうにしている。

「いや、俺も今来たとこさ」

俺もド定番のセリフで笑顔でうさこを迎え入れる。
ベタなやり取り一つも俺にとっては新鮮だ。
本当は30分以上待っていたが、その待ち時間も楽しく愛おしい時間だった。うさこが来たらどんな話をしようとか、どこへ行こうとか。色々想像しながら待っていたから、あっという間に時間は過ぎていった。
最も、ワクワクして早く来た俺が悪いのだ。時間を少し過ぎているうさこを咎めるのは違うと感じた。

「まぁ座れって。息が荒れていたら辛いだろ?」
「ありがとう、まもちゃん」

待っている時に座っていたベンチにうさこを座らせてやった。慌てて走ったのだろう。息苦しそうだった。
先ずはその荒く苦しそうな息を整えてから出ないと歩くのも辛いだろうと感じた。

「はぁはぁ」

ベンチに座ったうさこは肩で息をしながら呼吸を整えようと必死だ。
ヒーリング能力を持つ俺だが、流石に呼吸はどうしてやる事も出来ない。

「ふぅー、落ち着いた!」

一つ深呼吸をしたうさこは、そう言うと笑顔で元気にジャンプをして見せた。

「さて、呼吸も整ったからどっか行こ♪何処に行こうか?」

笑っていたうさこは、今度は考え始めた。表情が変わる。まるで百面相だ。

「うさこ!」

俺は、そんなうさこを呼ぶ。
どこかに行く前に、伝えておきたいことがあったからだ。言うのはこのタイミングしかないと思った。

「なぁに、まもちゃん?」

うさこを呼ぶと、笑顔で優しく呟いた。

「うさこの事が大好きだ。俺と、付き合ってくれませんか?」
「まもちゃん……」

前世では、自然と付き合いが始まった俺たち。
今世でも、メタリア戦が終わる前から友達以上恋人未満な関係が続いていた。キスも何度もしていて済ませているし、お互い愛称で呼び合うほどに親しい。
ヴィーナス達から見ると、もう充分恋人だと言われそうだ。
しかし、やはりこう言ったことはちゃんとケジメをつけたいと俺は考えていた。
前世と違い、将来がある。付き合った先に結婚と言う確かな未来が今の俺たちにはある。
だからこそ、ちゃんとしておきたいと考えていた。

「……返事は?」

俺のことを呼んでから、思考回路がショー寸前なのか。暫く沈黙で言葉が無く、流石に不安になる。

「う、嬉しい」

そう返事をしたうさこは笑顔になったかと思えば、両方の瞳から大粒の涙を流していた。

「私も、まもちゃんの事、大好きだよ!」
「それじゃあ……」
「不束な娘ですが、末永くどうぞよろしくお願いします」
「うさこ」

俺の真剣な告白に驚いていたうさこだったが、喜びからか返事をし終えると抱き着いてきた。
そんなうさこを俺は優しく抱きしめ返すと、俺の胸の中で泣いていた。

「まさか、告白してもらえるなんて夢にも思わなかったよ」

ひとしきり泣いたら、うさこは胸の中から顔を上げてそう話しかけて来た。

「何で?するよ?大事な事だろ?」
「そうだけど、そうなんだけどさ。私たちってもうとっくに付き合ってるって思っていたから。何か今更だし、このまま続いていくのかなって思ってた」
「ケジメは大事だろ?それでなくとも俺たち、前世は掟を破っていたんだ。この世界の仕来りに合わせたいと思ったんだ」
「まもちゃんも、案外普通の男の子なんだね。うふふ」
「ああ、普通だ。悪いか?」

俺たちはタダでさえ普通とは程遠いところに身を置いている。だからこそ、日常生活では誰より普通でありたいと思っていた。

「ううん、全然!寧ろ、まもちゃんが普通で良かった。こうして告白して貰えたんだもん」
「うさこがこんなに喜んでくれるなら、告白してよかったよ」
「喜ぶよ!」

喜ぶうさこの弾けるような笑顔を見て、改めて告白して本当に良かったと心から思った。

「うさこ、前世よりも幸せになろうな?」
「うん。勿論だよ」
「エンディミオンとセレニティが見たらヤキモチを焼く程、幸せになろう」
「二人が羨ましいって思うくらい、二人以上に幸せになろうね」
「これからは、前世と違って堂々と付き合えるしな」
「そだね。もう、隠れて会わなくても良いんだね」

そう、俺たちはもう一国を背負う王子と王女では無い。神の掟も無い。
これからは堂々と、陽のあたる場所で好きな時に好きなだけ会う事が出来る。
もうあの頃のように隠れて会わなくてもいい。そんな幸せを勝ち取ったのだ。

「セレニティ、ありがとう。クイーン、お母様、ありがとう。私、私たち幸せになるね。見守っていてね」

うさこは空を見上げ、まだ真昼で見えない月に向かってそう呟いた。

「クイーン、本当にありがとうございました」

そう、この幸せはクイーンが銀水晶で願ってくれたからに他ならない。尊い犠牲と共に得られた幸せに、感謝してもしきれない。
そんな人たちの為にも俺たちは幸せにならなければならない。俺は、より一層気を引き締めた。

「じゃあ、付き合った記念にデートに行きますか?」
「うん」

こうして俺たちは陽のあたる場所で光を浴びて悲しみを笑顔に変えて堂々と付き合う事になった。




おわり

20230521 MISIA/陽のあたる場所発売から25周年

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