原作エンセレSSログ

 生まれた時から既に有名人で、どこに行っても“王子エンディミオン”ともてはやされ生きていた。
 どれだけ忍んでいても、どこにいても分かってしまう。
 そんな世界が窮屈だった。自由なんてない。何もかも決められた人生。

 お世話係だと付けられた護衛の四天王。大変だと分かってくれた。寄り添ってくれた。
 しかし、芯に孤独や心の闇までは彼らといえども全ては理解できない。
 王子とは、孤独な生き物だ。きっと、王となるともっとだろう。

 別にこの人生が嫌だというわけではない。この人生しか知らないため、何の疑いもなく真っ当に生きていくだけだ。そう思っていたが、そんな俺に、一筋の光が指した。

ーーーセレニティだ

 その人は、俺と同じだった。月の王国の姫という立場で、いずれはこの太陽系の惑星全体を統司する。俺よりは位はずっと高い。
 それ故に、それなりに不安もあったろうが、彼女はいつも笑顔で幸せそうだ。
 そんな彼女と一緒にいると、心が温かくなっていった。不思議と自分が誰でどんな人かを忘れられる。とてもホッとする。ずっと一緒にいたい。傍にいてほしい。そんなことを思うようになっていた。恋とは、なんて恐ろしいんだろう。

 恋人と呼び合える時間の中で、特別な言葉をいくつ話そう。
 実際は、いつも他愛のない話でお互い満足していた。会えるだけで満たされていた。傍にいられるだけで幸せだった。
 きっとセレニティが月の光の様に優しくつつみ込んでくれていたからだろう。

 分かっている。幸せな時間はそう長く続かないということをーーー

 けれど、こうして会っている時だけは、忘れたかった。お互いの立場や、それなのに神の掟に背いている事、全ての人を裏切っているという事実を。
 それでも、この恋に将来がないと分かっていても止められなかった。
 いつか終わりが来るその日までは、このままでいたい。

 指絡めて交わしたあの日の約束は、今も心のなかで鍵をかけて温めたい。君と、君の心ごと。
 会うたびにさよならが来ることを考えてしまう。その度に怖がって、逃げ続けている。ダメだと分かっていても、君を失う恐怖が、寄せては返す波のように臆病になっている。

 誰もが皆、満たされぬ時代の中で、俺たちのように特別な出会いがどれだけあるのだろう。

 明日が見えなくて、君を帰したくない。もがくほど心焦るけれど、音もなく容赦無く朝が来て、また今日が始まる。セレニティとの別れのカウントダウンに絶望する。

 恋人と呼び合えるこの限られた時の中で、特別な言葉をいくつ話そう。
 夢に花、花に風、君には愛を贈ろう。
 そして孤独を、つつみ込むようにーーー




おわり

20230221 MISIA/つつみ込むように発売から25周年&祝デビュー25周年♪

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