原作エンセレSSログ


『永遠を誓おう』


最近、ずっと天候が思わしくない。あれだけ照り続けていた太陽を覆い隠し、暗黒へと変えてしまった青い空。
最早、空というものすら存在しないほど、ずっと雲は黒い。
それと同時に出現した巨大なモノリス。最初は小さく大したものではなかった。しかし、月日が経つにつれてそれは成長し、黒く大きな石柱となって行った。数も日に日に増えて行き、周辺は重い空気が漂っている。
近づけたもんじゃない。寧ろ、近づきたくないし、そういう雰囲気でもない。

俺は、もうこの地球も長くない。そう直感が告げていた。無理も無い。この地球国の王子である俺が、禁忌を犯してしまっているのだから。
無責任な言い方になってしまうが、終わるなら終わればいい。そう思っていた。
本音を言えば、この国を継いでもっと繁栄させたい。その想いは根底にある。
しかし、それとは裏腹に、セレニティと永遠を誓えないこんな世の中に未練というものが無いのも確かで。それならば、いっその事終わってくれると楽だとさえ感じてしまう。

「セレニティ……」

暗雲のせいで、会えない日の唯一の楽しみである“空を見上げて月を見る”事も最近、出来ずにいた。
空を見上げた所で、月が見えないのだから見る意味も無い。
しかし、天空にいる恋人の事は、いつでも心の中にある。セレニティの事を想っては、寂しさを募らせている。

地球と月の関係が拗れてどれくらい経つだろうか?その頃から出現したモノリスと太陽の異変。そして、暗雲。
そのせいか、セレニティも地球へ降り立つ頻度が減っていた。異常事態に気づいているのだろうか?
そもそも禁断の恋。今まで頻繁に逢えていたこと自体がおかしかったのであって、今のこの状況が正常なのだろう。

「ーーーあれは……、あの黒い雲は何?」
「分からない。いつからかあそこに暗黒と、そして巨大な石柱の群れが現れたんだ」

久しぶりのセレニティとの逢瀬。流石の彼女の目にもごまかせない程の暗黒。
綺麗な、地球と同じ様な澄んだ瞳のセレニティの目に、こんな汚い地球を見せたくはなかった。
こんな地球を見て、その美しい瞳を汚して欲しくない。
セレニティが好きだと言っていた、青い水晶球のようだと言う綺麗な地球。そして恋焦がれた緑や風。彼女の純粋な瞳と記憶には、そんな綺麗な記憶だけを焼き付けていて欲しい。
なのに、無情にもこんな光景を見てしまったセレニティ。きっと記憶も置き換えられてしまっただろう。

「セレニティ、もっと別の場所へ行こうか?」

澄んだ彼女の瞳に、醜い地球の光景をこれ以上写して欲しくなくて、耐えきれなくなり、移動を提案した。
これ以上、彼女を不安にもしたくない。どんなものか分からずとも、何となく悪い物だと言う想像は簡単に出来てしまうだろう。彼女に心配かけたくは無い。

「わぁー、綺麗」

あちこちとモノリスが出現している中で、今の所唯一汚れていない場所へと連れてきた。
そこは、自然豊かで、花や木だけでは無く、鳥や蝶々、川や泉がある。俺もホッと出来る最高の場所だ。気に入ってくれるという確信があった。

「うふふっ」

自然に触れ、笑顔で蝶々や小鳥と触れ合うセレニティ。それを見て、俺はホッとした。

「セレニティ」
「ん、なぁに?エンディミオン」

そんな彼女を呼びながら、手を取る。
その動作に、不意をつかれて触れられたからか、ハニカミながら頬を赤らめている。愛おしい。幸せだ。

「セレニティ、愛してる」
「私もよ、エンディミオン。愛しているわ」

愛を囁きながら俺は、適当に詰んだそこら辺に咲いていた花をセレニティの左手薬指へと巻き付けた。

「今日、セレニティの誕生日だろ?これはささやかだけど、僕からのプレゼント」
「覚えててくれたの?」
「当たり前だろ。君の事は何でも覚えてるよ。」
「ありがとう。とっても嬉しいわ」

今日はセレニティの誕生日。
ここ最近の世情を考えると、この日に俺に逢いに来てくれる事など考えていなかった。即席だけれど、そこら辺に咲いている花を指輪に見せかけた。
長寿国家に生きるセレニティ。彼女にとっては年に一度来る誕生日は、そんなに重要では無いと言っていた。
けれど、俺と会ってからはこの日は毎年、特別な日になったという。だから、今日も逢いに来てくれたんだろう。
俺と記念日に、特別の一日をすごしたいと。それに、応えたいと思った。

「この花は?」
「マーガレットさ。ここに咲いていたものだ」
「ありがとう、エンディミオン」
「セレニティ、俺たちは掟を破り、愛し合っている。将来一緒になる事は出来ない。けれど、来世がもしもあるのならばその時は、その時こそは絶対一緒になろう」

左手薬指、それは古来から婚約者へと誓いの指輪を、そして、婚姻の証としてつける場所。
もう、この地球は長くは無い。そして、それは月や他の惑星もまた同じだろう。
どちらにせよ俺たちにこの地で未来も将来も無い。だったら、来世を期待するしかない。

「エンディミオン……」

彼女の目からは雫が零れ落ちた。

「本当なら指輪をはめたい所だけど、それは出来ないから。花で申し訳無いけど……」
「ううん、充分よ。嬉しいわ。ありがとう、エンディミオン」
「ここは予約な?来世で生まれ変わった俺が、もっと君に相応しい指輪を選んではめるために」
「まぁ、エンディミオンったら。私はあなた以外の人のものにはどの世界でもならないわ」
「セレニティ……」

ちょっと我ながらキザなセリフかなと思ったが、セレニティが喜んでくれたから言って良かった。

「来世で、一緒になりましょうね」
「ああ、必ず君を見つけ出して恋に落ちるよ」

それから俺たちは、牧師様はいなかったけれど擬似結婚式を執り行った。
誓いの言葉。そして、誓のキスはいつもよりも長く、深く……。
いつまでもいつまでも抱きしめ合っていた。




おわり

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