愛情パラメーター(エンセレ)
地球に降り立った2人はいつもの待ち合わせ場所へと向かって歩みを進める。
しかし、プリンセス姿のヴィーナスは軽快だが、ヴィーナス姿のプリンセスは足取りは重く、気持ち的に中々進まない。
そんなプリンセスの気持ちを知る由もないヴィーナスは目的地へと突き進む。
近づくとエンディミオンとクンツァイトが待っているのが遠目でも分かり、2人は早足になり急ぐ。
プリンセス姿のヴィーナスがエンディミオンに歩み寄る。
「エンディミオン様」
「やぁヴィーナス、セレニティの格好、よく似合ってるよ」
秒殺所か瞬殺でセレニティがヴィーナスだと見破られ、思惑は物の見事に崩れてしまいなんの面白味もない。
それでも負けじとプリンセスである事を貫き通そうとする。
「何をおっしゃっているの?私、セレニティですわ」
「いや、君は間違いなくヴィーナスだよ」
「どうしてそう思われているのです?」
「敢えて言うなら雰囲気。話し方も声も少し違う。違和感だらけだよ。俺の好きなセレニティとは全く違うよ。どうだい?」
「なるほど、それ程までに我が姫を愛している、と?」
「そう言うこと」
「お見逸れしましたわ。王子、あなたの言う通り私はプリンセスではございません。仰る通りヴィーナスです。無礼をお許し下さい」
プリンセス姿を意図も簡単に見破られ、悔しかったが敗北は誰の目を見ても明らかだった為、素直に降参し、プリンセス姿のままドレスを両手で持ち上げ、会釈をして謝る。
王子の鼻を明かし、弱みを握り、ギャフンと言わせるどころか自身が策士策に溺れる状態になってしまい、とても悔しく思った。
「いや、大丈夫だよ。顔をあげてくれ。随分と面白い事を考えたね?」
「ええ、王宮では私たちとても良く似ている、と評判だったので取り替えてみてはと思いまして」
「似てると思ったことは無かった。しかし確かにその格好していると似てるかもしれないな」
あまり納得していない様子のエンディミオンの話を聞き、ヴィーナスは益々面白くない。
一方のヴィーナス姿のプリンセスもクンツァイトにヴィーナスとして挨拶するもあっさり見破られ、驚いていた。
「ごきげんよう、クンツァイト」
「貴女様はプリンセスセレニティ様ですね?」
「嫌だわ、ヴィーナスよ?」
「ご無理なさらずとも良いですよ?どうせヴィーナスにけしかけられたのでしょう?」
「クンツァイト、凄いわね!私とヴィーナスの見分けがつくの?」
単純にとても興味がそそられ、何故ヴィーナスを自分だと気付いたのか?と質問をする。
「立ち居振る舞い、雰囲気。理屈じゃないですね。顔も違いますし」
「そうなの?良く双子みたいに似てるって言われるのよ?さっきもみんな私をヴィーナスだと思って業務の話されて困惑したわ。それにジュピターですらヴィーナスと信じて疑わなかったし…クンツァイト、あなた観察力が凄いのね?流石は四天王のリーダーだわ!」
「お褒めに預かり光栄です。そうなのですか?全然見た目が違いますよ?でも確かにそうやってヴィーナス姿になると似てるかもしれませんね」
プリンセスの話からヴィーナスが王宮の中で信頼されている事が伝わってきて、こんな性格でもやはりプリンセスを護るリーダーとして立派にやっているのだとクンツァイトは思った。
話が一段落した所でエンディミオンがヴィーナス姿のプリンセスを迎えに来た。
「セレニティ、行こう!」
「ええ」
「ヴィーナス姿の君もとても素敵だよ」
「何か複雑だわ…ヴィーナスが褒められているみたいで、妬けちゃう」
「ああ、いやぁ…そう言う意味じゃないんだけど。…そうなるか?…ハハ、参ったな」
「ふふっ困った顔のエンディミオンも素敵ね。プリンセス姿が私じゃないって分かってくれた?」
「すぐに分かったよ!」
「本当に?どうして?ヴィーナスと私、とっても似てるでしょ?みんな見分けつかなくてヴィーナスの仕事の話
されてとても困惑したわ…」
「全く違うよ!理屈じゃ説明出来ないくらい」
「クンツァイトも同じ事言ってたわ!2人とも凄いわね!」
「それだけ俺はセレニティの事愛しているからね!」
「まぁ、エンディミオン!私もよ!」
そう愛を誓い合い、口付けを交わそうと見つめ合って顔を近づけようとしたその時、エンディミオンは一瞬怯んでしまう。
そう、彼女はセレニティ本人ではあるものの今の姿はヴィーナス。
するべきか否か思い悩み、葛藤する。
そんな事とは知らないセレニティは目をつぶって待っているものの中々エンディミオンの温もりが伝わってこない事に疑問を抱き、片目を開けて確認する。
そこには困った顔のエンディミオンがいて驚く。
「どうしたの?」
「ああ、いやぁ…セレニティなのは分かってるんだけど、見た目がヴィーナスだから、その…やりずらいと言うか、良いのかな?って…」
「私はセレニティよ?ヴィーナスじゃないわ…」
少し悲しそうな、そして泣きそうな顔で大丈夫だから、そう言ってる気がした。
セレニティの泣き顔に後押しされ、意を決して口付けを交わす。