Bittersweet
バレンタイン前日の夜。
当日の事を考えると中々眠れなかった。
まもちゃん、喜んでくれるかな?
受け取ってくれるかな?食べてくれるかな?
まもちゃんの顔を思い浮かべながら色々想像していた。
そこで、フッと突然不安に駆られる考えが湧き上がってきた。
幸せの絶頂にいた私は、“ある問題”から逃げていた。向き合っていなかった。
向き合わないといけない“ある問題”とは、まもちゃんの今までの女性問題だ。
容姿端麗、頭脳明晰、オマケにスポーツ万能で優しい。きっとモテて来たはず。ううん、絶対モテてた。
毎年、バレンタインにはチョコをいっぱい貰ってたんだろうなぁ……。
そして、今年も色んな女の人から貰うよね?
受け取って貰えなかったら、どうしよう。
考えなくても良い不安が、突然波のように襲って来た。
私は彼女だから、絶対受け取ってくれる。そんなの傲慢な考えだ。
いや、でもまもちゃんは優しいし、受け取ってくれる。
このプラスとマイナスの思考が波のように寄せては返しての繰り返しで……。
そんなまとまらない不安な頭のまま、いつの間にか寝落ちしていて。気づいたら、朝の八時十分。
……って、八時十分?嘘?大遅刻じゃん!
大事なバレンタイン当日に、やらかすなんて……さい先が悪過ぎるよ。
慌てて身支度をしてリビングに降りていく。
「おはよう、行ってきまーす」
挨拶もそこそこに、ママが用意してくれた弁当を手に取る。パッとリビングを見回すと、もうパパも進悟もいない。
「毎日、毎日。よくも飽きずに遅刻するわね」
ママの呆れた声が届く。私だってもっと早く起きたいのに、ゔゔっ。
この分じゃ、まもちゃんも先に行っちゃってるよね?
待ち合わせ場所の公園へ全力疾走で、期待をせずに急ぐ。
「うさこ、遅いぞ!先に行こうとしてた所だ」
「……はぁ、はぁ、まもちゃん!」
待っていると思わなくて、息も絶え絶え驚きつつ胸に飛び込もうとする。しかし、それは許されず、その代わり、手を繋がれた。
そして息付く暇も無く、走らされた。
遅刻寸前だから仕方ないけど、貴重な朝のランデブーが……。
本来、遅刻しなければ五分以上は一緒にいられる所が、走った為に二分足らずで終了してしまった。
「じゃあ、また放課後な」
「うん、放課後ね」
別れの挨拶をして、私は十番中学のクラスの自分の席へとスライディング着席をした。
直後、はるだがやって来て、ギリギリ私は遅刻を免れた。
まもちゃんは大丈夫だったかな?と自分のせいなのに、人の心配していた。
学校内では、みんなバレンタインチョコを持ってきていて、休み時間毎に配っていた。
私も持ってきていたから、例に漏れず仲のいい女友達に配って交換。
学校にいる間もずっとまもちゃんの事を考えていた。
もう、誰かから貰ってるかな?私が一番に渡したかったな。どうしてこんな大事な日にも遅刻しちゃったんだろ。
悔やんでも、終わってしまったのだから仕方ない。けど、ゆっくり渡せなかった事が悲しかった。
同じ学校だったら、昼休みにゆっくり渡せるのにな……。
そもそも、三歳離れているから中高一貫校でないと同じ学校に通えないけど。考えても拉致の開かない考えに、余計虚しくなる。
まもちゃんも遅刻寸前だったから、朝は貰う時間無かったかも。それに男子校だから、異性から貰う事も出来ないじゃない。
私だけが、渡せないわけじゃないんだ。そう考えると、いきなり楽になった。
早く学校終わらないかな。終わり次第、ダッシュしてまもちゃんの学校、行くんだから!
そんな気持ちとは裏腹に、私ははるだに捕まり、説教される事になってしまった。ギリギリ遅刻免れたのに、何で今日なの?
はるだ、もしかして彼氏に振られたのかな?それともあの日?なんて、説教中に現実逃避していた。そして、適当に返事して、謝る。
「じゃあ、月野さん。帰ってよろしい!」
謝って、凹んでいたら反省してると勘違いしたはるだから、帰宅オッケーが出た。時計を見ると、説教から二十分が経過していた。
元麻布高校へ行くのは諦め、待ち合わせのいつもの公園へと向かう事に。