Bittersweet
私は今、まこちゃんの家に来ている。
もうすぐバレンタインと言う事で、お菓子作りを教わっている所。
まもちゃんと付き合って、初めてのバレンタイン。ちゃんと手作りして渡したいもんね!
でも、私、お菓子作りは愚か、今までほとんど料理すら作った事無くて……。
どうしよ?と考えていると、まこちゃんと言う凄腕がいる事を思い出した。
初めて手作りのお弁当見た時、宝石箱かと思う程綺麗で美味しそうなおかず達。勿論、味も絶品で。
こんな人に教えて貰えたら、とお願いしたら笑顔で二つ返事でオッケーを貰った。
「ちゃんとレシピ通り、分量測るんだよ」
作るのはチョコチップクッキーと生チョコ。
そして今は、チョコチップクッキーのレシピを見ながら格闘してる。まこちゃん曰く、分量が少しでも違うと失敗するんだって。
それくらいお菓子作りは繊細で、気を使うものらしい。
なんか、恋する女の子の心みたいに繊細だな。なんて、お菓子作りに恋する女の子を重ねてみたり。そんな余裕、どこにもないんだけど。
「中々、難しいね……」
四苦八苦しながら小麦粉の分量を測る。
優しく見守ってくれてるまこちゃんのお陰で何とか頑張れてる。
きっとこれがママだったら……。
そう考えただけで挫折しそう。
そう、何で専業主婦のママに教わらなかったか?
それは、料理やお菓子作りになると結構スパルタ。
それに、つい甘えて作って貰って手抜きしてしまいそうだったから。
後は、進悟やパパに作ってるとこを見られたくないってのも大きい。期待させそうだし、パパに至っては色々聞いて来て面倒な事になりそう。
色々考えた結果、家では出来ないとの判断に至った。友達と作った方が楽しいってのもある。
実際、まこちゃんとのお菓子作りはとても楽しい。
「でも、意外だなぁ……。衛さんが、チョコレート好きだなんて。全く想像出来ない」
「そうだよね。私も知った時、びっくりしちゃったよ」
まこちゃんも驚いた様に、まもちゃんはチョコレートが大好物。
付き合って初めてのバレンタインだからってのも大きいけど、大好物なチョコだから作ってあげたい。そう思ったの。それに……。
「うさぎが手作りしたいって言ってきたのも驚いたよ」
「うん。あんな顔、見せられたら、ね……」
「え?何か言った?」
消え入りそうな、小さな声で言うとまこちゃんには聞き取れなかったみたいだった。
聞かれたくなかったから、ボソッと呟いたのだけど。
私が手作りチョコを作ろうと決めたのは、数日前のまもちゃん家に行った時の事だった。
「まもちゃん、チョコ食べるんだ?」
リビングのテーブルに置いてあったチョコに目が言って、驚く。
まもちゃんは高校生だけど、大人っぽい所もある。だから、チョコなんて食べないと思ってた。
「ああ、食べるよ。寧ろ、大好物なんだ」
「へぇー、意外。こんな甘い物なんて食べられない!ってタイプだと思ってた」
「俺、どんな印象なんだよ」
「大人っぽくて、クールで、かっこいい。そんな印象かな?だからチョコが好きって結びつかないというか……」
素直にまもちゃんに対する印象を暴露する。
「こう見えて、全然子供さ。6歳で両親と死に別れて、寂しくて。そんな時に食べたチョコが、そんな寂しい心を埋めてくれたんだ」
「まもちゃん……」
そう過去の事を語り始めたまもちゃんは、やっぱり何処か寂しそうで……。
胸が締め付けられる想いがした。
「後で分かったんだが……。チョコには幸せにする成分が含まれているそうだ。だから、食べてる時は気持ちが上向いたんだな」
6歳から突然一人になって、寂しくないなんて無いよね。まもちゃんも、ずっと寂しかったんだ……。
寂しさを埋める為にチョコを食べてたなんて、悲し過ぎるよ……。
「私がいるよ!!!」
「ああ、そうだな。うさこに会う為に、生かされたんだよな」
「そうだよ!私達、結ばれる為に生まれて来たのよ」
まだお互いに結婚出来る歳じゃないけど、私にはまもちゃんしかいないって思ってる。
そんなまもちゃんの為に、私はこの日、チョコを手作りしようと決意した。
寂しい想い出のチョコなんかじゃなく、楽しい想い出のチョコに変わるように。
そんな、並々ならぬ決意を胸に、今私はチョコチップクッキー作りを格闘している。
「上手く出来ると良いな」
型を取ってオーブントースターで焼き上がりをドキドキしながら見つめる。
「大丈夫さ!うさぎがくれる物なら、衛さんはどんな物だって喜んでくれるさ」
「そうだね。……って、まこちゃん?それって失敗する前提?」
「あ?バレたか?」
「ひっどぉ~い!」
「大丈夫、大丈夫!ちゃんと分量計ってたから上手くいくさ」
時間がかかるから、その間に生チョコを作る。
初めてのお菓子作り。優しく丁寧に教えてくれたまこちゃんのお陰で、何とかチョコチップクッキーと生チョコが出来上がった。
ハート形や星型、普通に丸い型と色々な形のチョコチップクッキーと生チョコ。
ハート形は勿論、まもちゃんに。
星型や普通の型のはパパや進悟。
友チョコも忘れない様にしないと。
百均で自分で買ってきたラッピング袋に出来上がったお菓子を入れる。
材料はまこちゃんに任せちゃったから、せめてラッピング類はと事前に買っておいた。
「ふぅ、出来た~!まこちゃん、本当にありがとう。まこちゃんがいなかったら、今頃私はどうなってたか……」
「んな、大袈裟な……」
「ううん、全然大袈裟何かじゃないよ!本当に、大助かりだもん!」
「うさぎが衛さんを思えばこそだから。根を挙げず、よく頑張ったよ」
まもちゃんの大好物のチョコ。手作り出来た達成感で満たされていた。
まこちゃん家を後にした私は、まもちゃんが喜ぶ顔を想像しながら帰路に着いた。
そして、イベント当日を心待ちにする日々が始まった。