恋人がサンタクロース


クリスマスイヴの前日の夜、うさぎはいつも以上にソワソワしていた。
恋人が出来て初めてのクリスマス。衛と過ごす最初のイベントだからだ。

メタリアとの壮絶な戦いが終わって間も無く。
戦士になって戦ったかと思えば、実は前世では月の王国のプリンセスで、地球国の王子と叶わぬ恋に身を焦がし、月の王国を滅ぼしてしまった。
戦いの中、ずっと励まして心の支えとして慕ってきたタキシード仮面が、前世で恋した王子エンディミオンだった。

記憶を取り戻したと同時に、衛はダークキングダムに囚われ、どうしているかと心配しながらも戦う日々。

再び姿を現した衛は“遠藤”と名乗り、まことやルナを傷つけて来た。
そこからメタリアとの戦いまで一気に駆け巡り、平和と恋人をやっと手に入れた。

「ご褒美……かな?ふふふっ」

月野うさぎとして過ごした14年。経ったの14年で、決して良い子では無かったけれど。プリンセスとしても周りを振り回し、月の王国も滅ぼしてしまった。
けれど、それでも今回の戦いで過去の罪は償えたとうさぎは考えていた。

そして、メタリアとの戦いが終わって1ヶ月後のクリスマスは、その辛い思いをしながら戦ったご褒美。
月の王国のプリンセスとして戦うことよりも守られていた人生から、強い戦士となりみんなを守れるお姫様へ。頑張った自分へのご褒美だと感じていた。

「……って、やっば!もうこんな時間?早く寝なきゃっ」

辛い戦いを思い出しつつ、明日の事を考えているとあっという間に時間が経っていた。時計を見ると23時40分。後20分でクリスマスイヴだ。
いつもはもうとっくに布団に入っているうさぎだが、明日のクリスマスイヴでの衛とのデートを妄想して興奮してしまい寝られなくなっていた。
幸い明日は土曜で互いに学校は休み。
だが、うさぎには早く寝なければならない理由があった。明日は衛と一日デートなのだ。

「起きれなくなっちゃう」

遅刻魔のうさぎは、衛とのデートに遅れることを懸念し、布団の中へと潜っていく。
そんなうさぎ、寝る事が特技なので興奮していてもすぐにうつらうつらとして寝息を立てながらゆっくりと夢の中へと入って行った。

「ふふっまもちゃん♡すぅー、すぅー」

うさぎが寝静まって30分が経ち、日付けは変わってクリスマスイヴになった頃の事。
トンットンッと窓を叩く音が鳴り響く。
深い眠りに入りかけていたうさぎだが、遠くの方で聞こえる音に気配を感じて、重い瞼を片目開ける。
音のなっている方向ーーー窓へと視線を移すと、うさぎは自分の目を疑った。

窓にいたのは、先程寝るまで思い出していた大好きな恋人ーーー衛の姿があった。

「ま、まもちゃん!?」

うさぎは目を疑った。寝惚けて幻を見ているのかと思い、目を激しく擦る。
そして、また窓の方向を見ると、やはり間違いなく衛の姿がそこにあった。
しかし、いつもとは明らかに雰囲気が違っていた。

「まもちゃん、その格好……」
「メリークリスマス、うさこ」

ベッドから起き上がり、慌てて窓を開けると衛は笑顔でそう、言葉を発した。そんな衛がしていた格好とはーーー?

「タキシード仮面……じゃ、無い?」

うさぎが戸惑うのも無理は無い。衛が来ていたのは、見慣れた安心感のある漆黒色のあのタキシードでは全く無いからだ。似ているが、全く違っている。
帽子はかぶっているが、それもいつものハットでは無い。仮面は、かけてもいない。
そんな衛の格好は、まるでーーー

「サンタクロースさ、プリンセス」

そう、衛が言っている通り、全身真っ赤なスーツに身を包んでいる。それは正に、サンタクロースそのものだった。

「わぁ、タキシード仮面のサンタさんバージョンだね♡」
「お気に召してくれたかい?」
「うん、すっっっごく!似合ってるよ、まもちゃん」
「ありがとう、うさこ」

普段は漆黒色の燕尾服に、マントを翻して夜の街を駆け抜けるタキシード仮面だが、今宵はクリスマスイヴの夜。衛は、機転を利かせてサンタクロース版のタキシードを誂えていた。
蝶ネクタイも、マントも全て赤で統一した気合いの入りよう。いつも持っているスティックもクリスマスカラーの緑と赤、そして白のシマシマ模様のスティック。ワンポイントで、ベルとベリー、リーフを少し上の方へと付ける事も忘れずに。
帽子も赤い、オーソドックスの物をかぶっていた。

「でも、どうして?明日、会えるでしょ?」
「そうだけど、俺、どうしても早く一目うさこに会いたかったんだ」
「嬉しい。まもちゃん、私も会いたかったよぉ」

衛もうさぎと同じ様に、クリスマスを過ごす事を楽しみにしていた。
しかし、その前にうさぎが苦手な二学期末のテストがあり、付き合ってすぐに毎日会える環境を失っていた。
うさぎと違い衛は、頭が良く普段から充分勉強をしている為、特に慌てることもない。その分、会えない時間がより一層恋しくて、愛を育てていた。
そんな思考回路で思い付いたのが、タキシード仮面サンタクロースバージョンだったと言うわけだ。

「うさこ……」
「まもちゃん……」

二人の間には最早言葉などいらなかった。
会えない時間に募った想いは、思わぬ衛の大胆行動により久しぶりに会った二人は、いい雰囲気だった。どちらからともなく、顔を近づけて行く。
そして、唇をゆっくりと重ね合わせる。久しぶりの恋人の唇を、温かさを堪能する。

「はぁ……まもちゃん」

何度かしているとは言え、うさぎはまだまだキスには不慣れで、離れた途端呼吸困難に陥り、必死で空気を吸っていた。

「うさこ」

そんなうさぎを、衛は優しく抱き締める。

「まもちゃん、大好き♪」
「俺も、うさこを愛している」
「でも、どうして?」

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