愛情パラメーター(エンセレ)


ヴィーナスはこの日、とても上機嫌で化粧台の前に座っていた。
化粧の雰囲気を変え、頭はプリンセスと同じお団子に手馴れた手つきで結っていた。
いつもであればプリンセス自身にお団子を結ってあげるのだが、この日は自分自身にお団子を結い、プリンセスにはいつも自身が付けているヴィーナスのトレードマークである赤いリボンを付けてあげた。

普段から王宮中でプリンセスとヴィーナスは双子みたいに瓜二つだと評判で、いつかお互いの姿を取っ替えたいとヴィーナスは思っていた。
しかし、激務を極めていてそのタイミングが無く、ずっと逃し続けていた。
この日、念願叶って時間が取れた為、思い切って交換してみることにした。

毎日プリンセスのお団子を結う事がヴィーナスの日課の為、自身の髪の毛もお団子に結うのは彼女にとっては容易いことで、すぐにお団子頭のツインテール姿のプリンセスに変身を遂げた。
勿論、ドレスもプリンセスのを借りて身にまとっている。
髪の色が唯一違うが、それは特殊なクシで梳かしてそれぞれお互いの色へと変化させた。
プリンセスはヴィーナスの戦闘服を来てモジモジしていた。

「うん、完璧ね!どこからどう見ても、誰が見ても今日の私はプリンセスそのものよ!」
「ヴィー、このコスチュームのスカート思った以上に短いよぉ~」

ノリノリで楽しそうなヴィーナスに対して、プリンセスは短いスカートに戸惑っているようだった。

「大丈夫ですよ!すぐ慣れます!私のコスチューム、流石似合ってますね」
「そう、かな?」
「ええ、とっても可愛いですよ♪どこからどう見てもヴィーナスです!」
「そう?ヴィーもプリンセスよ」
「ありがとうございます、プリンセス」

お互い完璧な変装で入れ替わったことを確認すると、手始めに王宮内を別々に歩く事にした。
入れ替わったことを気づかれるか、分からないまま貫き通せるか、本番に向けて予行演習として試しておきたかったからだ。

プリンセス姿のヴィーナスが廊下を練り歩いていると、案の定すれ違う人々みんなから会釈されたり、丁寧な言葉で挨拶をされる。
ヴィーナスの姿の時はそんなこと余りない事だったので驚くと共に結構気持ちがいい。と同時に、行き交う人全員に挨拶されたりしてるなんて結構疲れる事だとプリンセスになって初めて大変さを知ることになった。

(プリンセスも結構大変ね?行き交う人々全員に笑顔で挨拶を返さないといけないんだもん、気が抜けないわ。こんな事毎日やってるなんて流石ね。それであの笑顔は天使すぎるし神の領域だわ。やっぱりプリンセスは天使ね!)

プリンセスになりすましたことにより、今まで見えなかった苦労と大変さを垣間見たヴィーナスはより一層リーダーとしてしっかりと護らないとと言う思いで気を引きしめる想いだった。

そして一方のヴィーナスに姿を変えたプリンセスも又、ヴィーナスの大変さを知ることとなる。
行き交う家臣達が次から次へとヴィーナスに頼り、相談に乗ってもらおうと難しい仕事の話をしてくる。

(あはは、私ヴィーじゃないんだけどな…。みんなが言ってること微塵も分かんないよ。ヴィーってちゃんとリーダーとして務めてるのね。流石だわ。ごめんね、私セレニティなのよ?って言ってもきっと信じて貰えないんだろうなぁ…一応内容は後でヴィーに伝えておこう。ご苦労さま、みんな!そしてヴィー)

「あっ!ヴィーナスやっと見つけた!」
「ジュピター、私ヴィーナスじゃなくてセレニティなんだけど…」
「はあ?何言ってんだよ?どこからどう見てもヴィーナスだけど?」

慌てて否定するも上から下まで舐め回すように見たジュピターは、ヴィーナスの悪い冗談と受け止め呆れる。

「そーなんだけど…ヴィーナスと衣装チェンジしたの」
「はぁーまだ言い張るのか…」

大きなため息とともにやれやれと言った様子で明らかにうんざりし始めるジュピターに申し訳なさが込み上げる。 側近のジュピターですら見分けがついていない様子に、やはりヴィーナスと自分はそれだけ瓜二つなのだと確信する。
そして同じ様にヴィーナスも自分と勘違いされて呼び止められているのでは?と気になり始める。

「プリンセスを見なかった?」
「さぁ?さっきから全然見つからない。…ってやっぱりヴィーナスだったんじゃないか!」

否定するのが申し訳なくなり、もういっそそれでいいとヴィーナスとして貫き通そうと心に決めた。と、その時であるー。

「プリンセスゥ~」

遠くの方から本物のヴィーナスが呼ぶ声が聞こえてくる。
プリンセス姿でプリンセスを呼ぶおかしな光景にジュピターは一瞬、自分の目がおかしくなったか?それとも幻聴か?と混乱するが、先程のヴィーナスとの会話を思い出す。

「え?じゃあこのヴィーナス姿は本当にプリンセス?」
「やっと信じてくれた…」
「ごめんなさい、でも本当に瓜二つですね!毎日見てるのに見分けつかないな…」
「ふふっでっしょ~♪これから地球へ王子騙しに行くの!絶対!鼻を明かしてギャフンと言わせてやるんだから!」

ジュピターはプリンセス姿で得意気に下品な言葉を羅列し、息巻くヴィーナスに例え間違えて悔しがってもギャフンとは言わないだろうと呆れる。
そしてそんなにも王子が嫌いなのか?とプリンセスの事となるとムキになり、敵意剥き出しになるヴィーナスに王子が不憫だと同情してしまった。

「健闘を祈るよ」
「任せてよ!あの高い鼻へし折ってやるんだから!」
「はいはい…」
「私はあんまり乗り気じゃないんだけどなぁ…。騙すような事、したくないもの…」

もし気づいてもらえなかったら立ち直れない、そして愛する人を騙すような真似をして心が痛むし、何より軽蔑されるのでは?ととても複雑な心境になっていた。
そんなセレニティとは正反対にヴィーナスは王子の本気度と弱みを握りたかった。

「ここまで来たんですから、腹括って行きますよ!」
「…はい」

普段は地球へ行く事を嫌がるのはヴィーナスの方なのに、プリンセスの姿だからかとても乗り気で、一方のプリンセスは行くのがとても気が重い様である。
衣装チェンジすると性格もチェンジするのかと微笑ましくジュピターは後ろ姿を見送った。

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