原作まもうさSSログ
『あなた色に染められて』
すっかり寒くなり、冬になろうとしてるある日。
街のそこかしこを見ると綺麗なイルミネーションが目立つ。恋人たちのクリスマスが近づいている証拠でもある。
うさぎと衛も例外ではなく。想い出作りにとサガミコのイルミネーションに来ていた。
「うわぁ~~綺麗だね、まもちゃん♪」
「ああ、そうだな」
うさぎに強請られ、遠出してサガミまで来たのは、自分達のコラボレーションイベントがあったから。行きたいと言われ、断る理由も無く快諾。
目の前に広がる幻想的なライトアップを楽しんでいた。
うさぎは終始イルミネーションに大はしゃぎ。衛はと言うとしゃぐうさぎを中心に見ていた。いや、全身全霊で楽しむうさぎしか見ていない。
綺麗という問いかけにも「うさの方が綺麗だ」と思っていたくらいだ。
「再現度高いねぇ~。どれもすっごく綺麗♪」
一通り見て回った、うさぎの率直な感想だった。
「だけどその中でもまもちゃんのゴールデンクリスタルがいっちばん、輝いてて綺麗だったなぁ~」
数あるライトのラインナップの中で一際輝きを見せていたのはゴールデンクリスタルだとうさぎは力説した。
それには流石に衛も気恥ずかしくなり、思わず否定する。
「うさのシルバークリスタルには敵わないよ」
「そんな事ない!何より美しく輝いてるよ!」
「そうか?俺はうさを含め、シルバークリスタルが一番美しいと思うぞ」
「もう、まもちゃんったら褒め上手なんだから!でも、絶対!ゴールデンクリスタルのが綺麗」
「うさのその髪の色と同じだもんな」
「言われてみれば……」
言われて初めて今の髪の色が衛の所有するクリスタルと同じだとうさぎは気付く。
「どうして髪の色が前世と違うんだろうって思ってたんだけど、そっか、そーゆー事なんだ!」
急に何かを思い立ち、考え込む。
「どうかしたのか、うさ?」
「うん、あのね?私の前世は銀髪だったでしょ?」
「ああ、とても綺麗な髪の色だったな」
突然、前世の事を話し始めるうさぎ。
確かにプリンセス・セレニティだった頃は月の色と同じで、綺麗に輝く銀髪だった。
しかし、現世ではその色は受け継ぐことは無く、黄金に輝いていた。
これが中々プリンセスを探せない目くらましの役割を果たしていたのだろう。銀水晶を身体に宿しているからこそ、変化が必要だったのかもしれない。衛もうさぎも漠然とそう考えていた。
「ありがとう」
「で、髪の毛の色がどうかしたのか?」
「うん、まもちゃんがゴールデンクリスタルの持ち主だったから、髪の毛に反映されたのかなって」
「それって、どういう……?」
「私の前世であるセレニティはね、ずっと地球に憧れてたんだ。勿論、エンディミオンの事も大好きで」
そう前世の事を語るうさぎはとても美しくて。衛はうさぎの心に焼き付く前世のエンディミオンに、そして地球に嫉妬した。胸が締め付けられる思いがした。
「少しでもまもちゃん色に染まりたいって想いが髪の色に現れたのかなって。この髪の色はゴールデンクリスタルの力なのかなって、今ふと思ったの。勿論、地球に生まれたからって考えもあるかもしれないけど。そうだったら素敵だな。いいなって」
別に銀髪だったからセレニティを好きになった訳では無い。しかし、衛は銀髪から金髪に変わった事を少なからず残念に思っていた。
今のうさぎの話を聞き衛は照れ臭いが、自分とうさぎにそういう共通点がある事に嬉しく思った。
自分の聖石、ゴールデンクリスタルによってうさぎの髪の色が金色に染まった。そう言う考えも悪くない。と言うか、そうなら嬉しいと衛もうさぎの考えに賛同する。
「俺の、ゴールデンクリスタルでその髪の色になったのか。にわかには信じられない」
「前にも言ったと思うけど、私の銀水晶の力はまもちゃんの力があって初めてその力を発揮できるの。銀水晶はあってはいけないものだって悩んだりしたけど、ゴールデンクリスタルが私の銀水晶の存在を肯定してくれてるんだと思うんだ。より強い力が発揮できるように導いてくれてるんだと思うの。だからきっとこの髪の色もまもちゃんからの贈り物。なんてね」
ゴールデンクリスタルのライトアップを背景にうさぎはそう嬉しそうに大人の色気を含んで笑顔で語って見せた。
そうだと素敵だ、嬉しいと。黄金に輝く髪の毛をなびかせて喜んでいる。
「ゴールデンクリスタルと同じ髪の色か……」
「そう、まもちゃん色に染まったんだよ」
大人の顔から今度は無邪気に喜ぶ子供のあどけない顔になって喜ぶうさぎ。
出会った時と変わらず、コロコロと変わる百面相なうさぎの表情に衛は魅了される。
この笑顔をいつまでも守りたいと強く思ったと同時に、うさぎの黄金に輝く髪の毛を愛しく感じる。
しかし、まもちゃんのクリスタルとオソロだと喜ぶうさぎの顔を見ていた衛は、ふと現実に戻る。30世紀で見た未来のうさぎ、ネオクイーンセレニティの髪の色は前世と同じく銀髪。
うさぎ曰く、地球人として生まれ、ゴールデンクリスタルの御加護で金色の髪であるならば、銀髪になったのはやはりクイーンとして君臨する際に自身のシルバークリスタルの力によって変色してしまったのだろう。
やはりシルバークリスタルの力は強大。ゴールデンクリスタルはうさぎの力を最大限に引き出す聖蹟であり、うさぎが女王になる事や髪の色が前世に戻る事は止められないのか。そう衛は心の中で一人、落ち込む。悪い方向へと考えるのは、衛の悪い癖だ。
同じ蓮の華の形の水晶で交互に、まるで2人は一心同体、過去も未来も超越してずっと同じ、そんなメッセージを含んでいるように光っているというのに。
うさぎが自分の傍で幸せに笑っている。想い出が作れる。前世の様に限られた時間しか会えないと言うリミットも何も無い。
欲しかった幸せが、手の届く所にあるのだから。
せっかくイルミネーションを見に来ているのだから、もっと楽しい事を考えようと無理矢理思考を明るい方へと持って行こうとうさぎを見る。
色んな光を浴びた恋人は、誰より綺麗で美しく、衛の沈んだ心が浄化されて行くのが分かった。
やはりうさぎは自分にとってかけがえの無い唯一無二の存在だと再確認する。
無邪気な笑顔で、時折大人の色気を含んだ恋人の楽しそうな顔を見て、先程の考えは自分の中にだけ閉じ込めておくことを衛は決意した。
今だけは、未来など考えずこの天使の様な笑顔を護りたい。せっかく平和な日々を過ごせているのだから。
おわり