Eclipseの日に
「え、ええっとぉ、スモールレディはまだ……だっけ?」
「うさ、そのボケは苦しいぞ。まだ当分帰れないと話したところだ」
「そうだっけ?」
キングに恋心を抱いていた事もあったプルートだが、この二人のこういうやり取りを見て、叶わないと再確認した。
所詮は叶わぬ恋。そっと胸にしまい込むことを決意した。
「スモールレディの恋の応援、してあげてね?」
「それはエリオスとスモールレディの態度次第だな」
「まぁ。あの子もこの戦いでは辛い想いを抱えているのよ?エリオスだって……」
そう、“乙女よ”そう言われて頼られたかと思い喜んでいたが、よくよく聞くとそれは自分では無かった事が判明。
“美しい夢を持つ月の光に守られた王女にして戦士”
エリオスの探していた乙女の詳細を聞けば、それはスモールレディでは無くうさぎである事は一目瞭然だった。
それでもエリオスが頼ったのは、他では無いスモールレディだった。
「そうだったな。エリオスとスモールレディがあの時いなければ、俺の命は無かったかもしれない」
「そこは私の愛の力で、絶対治してたわ!」
「それが無理だからゴールデン・クリスタルを探してたんだろ?」
「でも、そこに頼りたくなるじゃない?」
「気持ちは分かるけど……うさだって俺の呪いが移ってしまって、結局それどころではなかったしな」
「元を辿れば私が前世でかけられた呪いよ。まもちゃんのはとばっちりじゃない!私といるから、まもちゃんを危険に巻き込んじゃう。みんなまでも……」
ネヘレニアにかけられた呪いの言葉を思い出しながらクイーンは、悔しがった。
自分と言う存在が、いつも周りを巻き込んでしまうこと。それでも黙って着いてきてそばにいてくれて支えてくれるキングや戦士達に、感謝をしてもし足りない想いだった。
「それは言いっこなしだ!ネヘレニアのは祝賀パーティに呼ばれなかったことや孤独な事を逆恨みしたに過ぎない。勿論、今までの敵も、これからの敵も」
「そうですよ!私たちはクイーンが大好きで大切だからずっと傍にいるのです。これからも、何度生まれ変わろうともこの命はあなたの為にあります」
「まもちゃん、せつなさん」
“せつなさん”そう久しぶりに呼ばれたプルートは、歯がゆかったが、万遍の笑みを浮かべていた。
「でも、惜しかったな……悪夢で見た小さいまもちゃん、すっごく可愛かったのにぃ!!!」
「一体、どんな夢を見ていたんだ……」
「あれは私にとっては悪夢なんかじゃあなかったわ!寧ろ幸せな夢よ!なのに、なのに……」
「起こしてすまなかったよ」
自分の知らない夢の話の中の小さい衛の話をし始めたクイーンは、とても幸せそうな顔を浮かべた。
その顔を見てキングは、全く面白くなく、期限を損ねた。例え小さい自分であっても、やはり今の自分では無い衛を想い恋する乙女モードに入られても楽しいものではない。
大人気ないが、小さい自分自身へ嫉妬している心の狭い人間である。
「それを言えば敵の幻術で小さくなったうさも可愛かったぞ」
そんなクイーンに、キングはここぞとばかりに反撃に出る。
あの時は呪いで苦しんでいて、そんな余裕すら持てなかったが、敵の手により小さくなったうさぎは更に可愛いと感じた。
ちびうさがうさぎとの娘と聞いた時に、小さい頃のうさぎもこんな感じかと想像したが、また違った可愛さで驚いた。
「本当に?えへへぇ、嬉しいな♡まもちゃん、ありがとう。大好き」
衛とは違い、うさぎは可愛いと褒められた事が単純に嬉しくて喜んだ。そんなうさぎの姿を見た衛は、やはり自分は心が狭いと感じ、うさぎの方がずっと大人だと気づいた。
「うさ!」
そんな己の心の小ささを打ち消す様に衛は、うさぎを抱き締め再びプルートの事を忘れて夢中で深くキスをした。
「はぁ……」
再び存在を忘れられたプルートは、深いため息を着いた。
周りさえも空気と化して何も見えなくなる二人には何を言っても無駄だと、今度は二人から視線を逸らして時空の扉のいつもの位置へと戻った。
そうして二人の世界に入っているキングとクイーンを他所に、これからの戦いに苦戦するであろうスモールレディ達を思いながら、無事をそっと祈るのであった。
おわり
20221108 皆既月食の日