Eclipseの日に
「どうしたのかしら?」
一向に帰ってこないスモールレディにクイーンは、心配を募らせる。そんなクイーンを見て、キングは持ってきていた手紙を取り出して一読する。
「“4月1日”となっているな」
「と言いますと、エイプリルフールの嘘……という事でしょうか?」
「その可能性はあるな」
イベントが大好きなスモールレディの性格を思い出しながらキングは思慮深く答える。
しかし、それだけではないような気がしてどこが引っかかる。わざわざこの日と言うのもおかしい。
「過去の4月1日……」
「もしかして、あの日じゃないかしら?」
プルートとキングが考えていると、突然思い出したようにクイーンが呟いた。
「あの日?あ、皆既日食か?」
「ちょうどその日でしたら、合点がいきますね!」
皆既日食の日だと気付いたキングの言葉を引き取る様にプルートは頷いた。
過去のこの皆既日食のあの日を境に、窮地に陥り集結。再び力を合わせて敵を倒した。過去の因縁を払拭し、より強い力を得た。
「となると帰って来られないか……」
「この戦いはスモールレディがいなければ成立しませんからね」
時空を飛ぶ事が封じられていて、帰って来られないのは大前提だが、それ以上にスモールレディにとっても重要な局面となる。
「まだ修行は終わってない。と言う事か……」
「みんなにとっての試練が、近づいているのね」
どれだけ戦いの中で強くなっても、新しい敵はそれを遥かに上回る。
今回は、日食の日を境に戦士として戦う力を失った。パワーアップ変身をする為には己の夢と向き合って打ち勝つ事。
「みんな、頑張って!」
クイーンは、目を閉じて手を組み、強く強く祈った。
未来はある。必ず試練を乗り越える!
過去の自分達の強さと絆を信じているが、過去に干渉したり助言する事は許されない。戦士としての力ももう無い。だからここでこうして祈る事しか今のクイーンには出来なかった。
スモールレディを過去へと修行の名目で送り込んだのも、今の自分には何も出来ないからだった。
確かに、スモールレディはまだまだプリンセスとして未熟だ。自分がそうであったように、敵と戦い戦士としてのスキルを上げることで自信になる。自信に繋がる。
いつかはクイーンとして立派にこの星を、太陽系を守らなければならない。
そして、この戦いはうさぎやクイーンへの劣等感を持っていたスモールレディの心を成長する為にも乗り越えなければならない試練だった。
「スモールレディ……」
「うさ」
不安な心で祈っていると、キングがクイーンをそっと抱き締めた。
「まもちゃん……」
「あの時は、すまない」
「ううん。呪いだって分からなかったんだもん。仕方ないよ」
「悟られちゃいけないと思ったんだ。ただでさえ新たな敵で苦戦しているのに、俺の事で負担になりたくは無かった」
「私たち、いつだって二人で乗り越えてきたじゃない。相談はしてはしかったけど」
「そうだったな」
「あなたの苦しみは、私の苦しみ。それは今もこの先も変わらないわ」
「じゃあ、この戦いを終えて帰って来たスモールレディに彼氏が出来た俺の苦しみも、分かってくれるか?」
「まぁ、まもちゃんったら!900年パパ一筋でいてくれたんだから、祝ってあげなさい」
「だからこそ、受け入れ難いんだよ……」
この後の展開が予め分かってしまっている為、キングはスモールレディの成長の一端を嘆いた。
“パパ、だぁいすき♡”
いつもそう言って片時も離れたがらなかった娘が、過去での修行で恋人が出来るとは考えたくも無かった。
「まもちゃんには私がいるじゃない!これからもずっと変わらずうさはまもちゃん一筋で愛していくわ♡」
「うさ……」
視線が合うと、クイーンはあの頃の純真無垢な笑顔で頬をほんのりと染めた在りし日のうさぎがそこにいた。キングである衛は、見上げてそんな顔で見られるのが、とてつもなく弱かった。
優しく包み込む笑顔に吸い込まれるように、自然とキングは顔が動き、クイーンの顔へと近づいた。クイーンの顎を右手で持ち上げ、自身は腰を屈める。そして、唇がふんわりと触れ合った。
気持ちを確かめる様な優しいキスに、時間が止まったような感覚に、そして戦いが始まる事など何処吹く風だ。
「ゴホッゴホッ」
ほぼほぼ空気と化していたプルートが、バツが悪そうに咳払いをして見せた。完全に二人の世界に目も当てられない。
しかし、思い返せばこの戦いの最終決戦でも二人は、みんなが見ている前で長く深いキスを人目もはばからずしていた。つまりは通常運転。二人には回りなど関係無い。
そう、二人の愛が昔の地球と月を滅ぼす程なのだから。プルートは、過去と前世に思いを馳せながらそう感じていた。