君と月見と
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「エンディミオン、私と月が見たいってどうして?」
不思議そうに聞くプリンセスに顔が綻ぶ。
「今日は満月だろ?今地球は秋に当たる季節で、それを中秋の名月と言ってすすきとお団子を備えて月を見ると言うイベントが昔からあってね?満月自体は珍しくはないんだけど、1年で一番綺麗に見える特別な月なんだ。」
だから月のプリンセスである君と一緒に月見をしたかったんだ、君にピッタリのイベントだろ?と言うと素敵ねと目をキラキラ光らせ、セレニティの身体をまとっている光もより一層輝かせ笑顔で無邪気に喜ぶ。
「中秋の名月のお月見イベント気に入ったわ。またあなたと見たいわ」
予想以上に喜んでくれて気に入ってくれたセレニティはまた俺と見たいと言ってくれたけど俺たちに未来は無く、遠い約束は面と向かってはする事が出来ないけれど、来年も君と過ごすことが許されるなら喜んで一緒に月見をしようと心に誓う。
「もう1つ言い伝えがあってね?この時期には月でうさぎがお餅を突いていると言う伝説が地球にはあって、本当にそうなのか知りたくて」
勿論信じてなんてないけどね?と付け加えたが、俺らしくない変な話をしてみるとキョトンとした顔をした後セレニティは笑いだした。
「まぁエンディミオンったら面白いわ」
月には動物はあまりおらず、勿論うさぎと言う動物も見たことがないと言う。当然、お餅という食べ物も聞いたこともないとセレニティは話してくれた。
ただの伝説で信じてなどなかったらガッカリはしなかったけど、うさぎもお餅も月には存在しない事にカルチャーショックを覚えた。
セレニティとそれぞれの星の話をよくするけれど、その度お互いの文化の違いに驚かされると同時にとても勉強になる。
伝説は伝説で昔の人が面白おかしく話を作り脚色され、拡張され過ぎただけの本当にただのおとぎ話だった。
「でも月に王国があると言う伝説は本当だった」
ゴールデンキングダムにずっと伝わって来た“月には王国があり、全知全能の女神がいて地球を見守ってくれている。王族の血を引く者はその額に三日月マークがある”と言い伝えられ、その話にずっと魅せられてきた。
まさか本当に月の女神がいて会えるなんて思いもしなかったし、ましてやこうして心を通わせるとは思ってもみなかった。
うさぎやお餅が無くてもいい。
セレニティがいてくれたことが幸せだ。
「君がいてくれてよかった」
「エンディミオン…」
セレニティは恥ずかしそうに頬を赤くして瞳を潤ませ、ゆっくり瞼を閉じる。
瞳同様リップで潤んだ唇にゆっくりと自分の唇を優しく重ねキスをした。
彼女の守護星の月が優しく微笑んでくれている気がする。
今だけは未来の事などは考えずただ彼女と時間が許す限りこうしていたい。
END
2020.10.01 中秋の名月