原作まもうさSSログ
『シェアハピ』
午後四時半を過ぎ、そろそろ五時になろうとしている夕方時に衛は一人でいつもの公園のベンチに座っていた。
放課後、部活に入っていない所謂帰宅部の衛は同じく帰宅部の恋人であるうさぎと放課後はいつもこの公園で待ち合わせしている。
今日もうさぎと待ち合わせ。のはずだったのだが、軽く一時間半は待ちぼうけを食らっている。
衛とは違い、うさぎは遅刻常習犯。学校終了後直後に来た試しがない。
衛は真面目で頭がいいが、うさぎはお世辞にも頭がいいとは言えない。授業も真面目に聞いているかは怪しいし、早弁と言うものもよくしている。
その為、放課後は先生からの説教やテストの追試で居残ることも日常茶飯事。
「うさは今日も遅刻か」
腕に着けた時計をチラッと見て衛はそう呟いた。
うさぎの遅刻も付き合って何ヶ月も経った今、慣れたもので“またか”と思うだけ。
勿論、早く会いたい。遅刻する事で会う時間も減ってしまう。少しでも長くいたいが、こればっかりはもう治らないと諦めかけていた。
今日も遅刻。分かりきっていた衛は、小説本を持ってきていて、待ち時間に読み進めていた。更には両耳にはイヤホンを付けている。
優雅に、それでいて有意義にうさぎを待つことにした。
しかし、流石に五時を過ぎようとしているのにまだ来ないとは遅すぎないか?
そう思いながら小説を読んでいると、後ろから人の気配がした。
うさぎだと言うのは分かっていたが、どんな言い訳が来るのかと様子を見る為に気づいていないフリして泳がした。
「まもちゃん、何聴いてるの?」
遅刻をしたことを謝るのを忘れ、珍しくイヤホンをしている事に気を取られたうさぎは、衛の左耳からイヤホンを取り、横に腰掛けながら自身の右耳へと入れた。
入れた途端、うさぎの顔が曇った。
「う、な、何これ!?」
聞こえて来たのは人の声のみ。
どうやら何かの小説を朗読しているようだった。
予想だにしなかった結果に、うさぎは衝撃を受けて固まってしまった。声にもならない。
衛のことだ。うさぎが聴くアイドルや今時のポップスでは無いことは予想していたし、クラシック辺りだろうと思っていた。
しかし、予想は裏切られた。まさかの朗読。
「ああ、うさ。これは今読んでいる小説の朗読版だ」
「へ、へぇー。そーなんだ、凄いねぇ〜」
衛は小説が好きだ。活字マニアと言っていい。それはうさぎも知っていた。が、それがまさか朗読として耳でも楽しむ程とは思ってもなかったので、うさぎは驚き過ぎて返す言葉も無かった。
「そうだ、これならうさにも入りやすいんじゃないか?」
聴いてみるか?と勧められ、うさぎは更に固まった。
「あ、アハハハハ〜〜〜」
出来れば回避したい方向で行きたい。
衛の好きな物も好きになりたいとも思う。
だからこそこうして音楽をシェアしようと聴いていたイヤホンを借りたのだ。
なのにそれがまさかの方向へと向かおうとしている。
「クスッ無理はするな」
慌てて笑顔で取り繕ううさぎの顔をイタズラな笑顔で微笑んだ。
「もう、まもちゃん!またからかったわね〜」
「遅刻した罰だ!」
「うっ」
衛の意地悪に、今日も勝てないうさぎなのだった。
おわり
20241111