原作まもうさSSログ
『サテライト』
連休の午後、いつもの様にうさが俺の家へとやって来た。
一つ違うのは、手には花束とお持たせを両手いっぱい抱えている事だ。
「気を使わせちまったな」
「そんなことないよ。ご両親に手、合わさせてね」
彼岸であるこの連休に来たうさは、俺の両親の仏壇に手を合わせる為に花束と手土産を持ってきたのだ。
かえって気を使わせてしまったようで気が引けたが、うさが笑顔で気にするなと言うので心が少し軽くなった気がした。
「いつも悪いな」
「ううん、まもちゃんの大切な人は私にとっても大切な人だもん」
うさは仏壇のある和室に入ると、持ってきていた花束を鞄に入れ、手土産を仏壇にお供えしながら答えた。
うさにとっては何でもない言葉でも、俺にとってはその言葉はとても嬉しくて心を強く締め付けた。
「うん、ありがとう」
6歳の誕生日に両親も自身の記憶さえも亡くした俺。
勿論、両親の事さえも忘れていて未だに思い出せないまま。
だから両親がどんな人かすら分からない。どこか他人事の様な気持ちがする。
しかし、うさがこうして俺の気持ちに寄り添い、俺以上に俺の両親を大切に思ってくれていることが嬉しい。
仏壇の前に正座して手を合わせてからうさは長いこと拝んでいる。一体何をそんなに長く俺の両親と喋っているのだろう。
俺自身でさえも誰だか分からない両親とここまで長く喋ったりしないのに。
「うさ、何話してたんだ?」
「ん、内緒〜♪」
「うさ!」
「うわあ、まもちゃんは任せてって言っといたんだよ」
内緒にしようとしたうさの背後から抱き締めると、うさは照れたように白状した。
「まもちゃん、ご両親見てるよ」
後ろを向いたうさの顔に近づこうとしたら、顔を両手で押されてしまった。
「ん、見せつけてやろうぜ」
「もう、まもちゃんのえっち!」
「可愛いこと言ううさが悪い!」
両親の前で少し長めの口付けを交わす。
顔を離して見たうさの顔は、少し怒りながらも頬は高揚していて色っぽい雰囲気を纏っていた。
いつも思うが、あどけない笑顔で子供っぽいところも多いのに、こういう時はいつも女性の顔になるので狡いと思う。
「うさは俺にとってサテライトだよ」
家族がおらず、記憶もない俺にとってうさという存在は月であり、太陽であり、衛星でもあって。帰る場所で、道標だ。
ずっと傍にいて俺を照らし続けて欲しい。未来だけでなく、来世もあるのなら、出来ればずっと。うさと歩んでいきたいと改めて決意した瞬間だった。
おわり
20240923 お彼岸