原作まもうさSSログ



『真夏のキスにご用心』



「……ねぇ、まもちゃん?」

クーラーの効いた部屋でうさぎは衛に話しかけた。長い沈黙に耐え兼ねたのだ。
別に沈黙が嫌いなのでは無い。この状況に嫌気がさしたのだ。
衛とうさぎ、部屋には二人きり。それなのに先程から会話など全くなく、聞こえて来るのは衛が走らせているシャーペンの音一つ。
付き合っている男女が二人きりのこの部屋で、何とも色気がないが勉強をしていた。
仕方がない。学生なのだから勉強は必須。
分かってはいても元々うさぎは大の勉強嫌い。楽しいわけが無い。集中など最初っから皆無だった。
しかし、衛は違っていた。進学校へ通い、成績が万年学年トップの衛は勉強は苦ではない。
話しかけてこちらに意識を向ける事でうさぎがいるという事に気づいてもらいたかった。

「ん、何だ?」
「勉強、飽きちゃったよぉ〜」

嘘だった。最初からする気はなかった。
さもしていたかのようにわがままを言った。

「夏休みの宿題、やらないとだろ?」
「そうだけどぉ……」
「それに、俺たち一応受験生なんだから毎日しても足りないくらいだ」
「……うっ」

頭が痛い。耳にタコ。中学三年生になってから何度となく繰り返し言われていた単語に、うさぎの気分は曇っていく。
ただ衛と一緒に初めての夏休みを過ごしたいだけなのに。受験が、宿題がそんなうさぎの思いを阻む。
デス・バスターズとの戦いを終え、衛の誕生日も済み、ゆっくり出来ると思っていたのに。現実はうさぎに厳しく襲いかかった。

「まもちゃん、厳しい」
「来年の春、二人笑っていられる未来にしたいだけだ」

だからほら、うさも頑張れと衛から応援されるが、気乗りがしない。
せっかくの夏休みで、ちびうさもいない。学校にプールだと出かけたタイミングで衛の部屋へと来たのに。これでは恋人の時間が取れない。
念願の衛との初の夏休みが受験と言う高く厚い壁が立ちはだかる。

「まもちゃぁん」

猫なで声をだしながら衛に近づき、上目遣いで衛の腕にしがみついた。

「ね、熱中症ってゆーっくり言ってみて?」

うるうるした目で衛に懇願する。

「言わない!」
「どうしてよ?ケチ〜!」
「知ってるから。ったく、人の気も知らないで」

うさぎのリクエストには答えられなかったが、その代わり衛は思わぬ行動を取ってきた。
うさぎに向き合ったかと思うと、切羽詰まった顔をそのままに近づけてきて、うさぎの唇に衛の唇が重なった。
望んでいたことが形となったが、余りにも急な出来事に嬉しいと思う暇もなく驚く事しか出来なかった。

「ま、まもちゃっ?」
「俺だって、うさのためと思って我慢してたのに、ズルいぞ!」
「え?」
「言っとくけど煽ったのは、うさだからな!」

そう言ったかと思うと余裕の無い衛は、強引に、でも優しくうさぎの唇を奪った。
チュッチュッとリップ音を鳴らしながら、角度を何度もかえ、やがて深く貪るようなキスを繰り返す。

「ふぇ...///」

長い口付けの後、やっと離れた唇からうさぎは必死で酸欠になっていたのを空気を吸った。
生理的な涙と嬉しいと言う涙が頬を伝う。
深い大人のキスは初めてでは無いが、何度しても未だに慣れない。いや、この先きっと慣れることはないだろう。

「やり過ぎたか?ごめん。うさが可愛すぎて、つい」
「もう!まもちゃんのバカ」

その後、恥ずかしくなったうさぎは降参して勉強に集中し始めた。
しかし、慣れない勉強と衛との熱いキスのせいで倒れてしまった。熱を測ると38℃5分もあった。熱中症、ではなかったものの夏風邪で数日寝込み、そのまま衛にずっと付きっきりで看病されたのだった。




おわり

20240815


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