部屋とまもちゃんと私



「私のことは、いつから……その、す、好き、だったの?」
「難しい質問だな。……気づいたら、かな?うさこは?」
「あ、あたし、も」

いつも偶然出くわし、その度に憎まれ口を叩かれ、売り言葉に買い言葉で言い返していた。
だけど、いつの間にかドキドキして、楽しくて。また会えたらって期待してた。

「タキシード仮面に、じゃなくて?」
「タキシード仮面も好きだけど、まもちゃんのことも気になってたよ」
「エンディミオンでも無くて?」
「違うもん!やっぱりまもちゃん、意地悪だー」

まもちゃんがエンディミオンの生まれ変わりで、私がセレニティの生まれ変わりで、禁忌の恋をしていた事なんて、知る由もなかった。
そんな前世を思い出さないまま、私は惹かれていた。きっと、まもちゃんも……

「エンディミオンがまもちゃんって分かったのは銀水晶が現れてからだもん!その前からだし。それを言うとまもちゃんだって……」
「俺もセレニティだとまでは思ってなかった」
「いつ、思い出したの?」
「うさこと同じタイミングだよ」
「そっか……」

まもちゃんも前世の記憶は私と同じタイミングだって知って嬉しかった。それと同時にホッとした。
前世の記憶が無いままお互いに助け合い、惹かれあったのが、正に運命なんだなって思ったから。

「もう一つ、聞きにくいんだけど……」
「なんだ?」
「うん、あの、ね?幼少期の記憶は?」

話の流れで、意を決して失くした記憶の事を聞くことにした。
それまで笑顔だったまもちゃんから笑顔が消えて、暗い顔になっていく。まもちゃんは、顔を横にフルフルと力無く振った。

銀水晶は見つかった。まもちゃんは、事故で失った自身の記憶を取り戻すために銀水晶を探し求めて敵と戦っていた。
もしかして、と思ったけれど。その記憶は失われたままだと知った。
銀水晶で取り戻せたのは、前世の記憶。幼少期のまもちゃんの記憶は取り戻すことが出来なかったみたい。

「そっか……ごめんね、嫌なこと聞いちゃって」
「いや、俺もうさこには知ってて欲しかったから、話せてよかったよ」
「まもちゃん……」

きっと辛いはずなのに。本当は誰にも知られたくないことだと思うのに。

「11年も戻らなかったんだ。そう簡単に戻らないと覚悟はしていたよ」
「でも……」
「まさか銀水晶で別の俺の記憶が戻るとは、思いもしなかったけどな」

辛いはずのまもちゃんは、少し笑顔でそう言った。
過去を取り戻すために探し求めていた銀水晶。それを手に入れ、戻った記憶は前世で王子だった時のもの。それは、銀水晶が前世のものだから。
今の記憶は、自分で取り戻すしかないってことみたい。

「過去の記憶は戻らなかったけれど、良いんだ」
「どう、して?」
「今はうさこがいる。うさことのこれからの思い出を記憶に刻んで生きて行きたいって思っているから」
「まもちゃん……」
「一緒に、いてくれるか?うさこ」
「うん、もちろんよ!」

前向きに頑張って未来を考えているまもちゃんの傍で支えていきたいと心から感じた。
まもちゃんの顔を見ると、熱い眼差しとぶつかった。瞼を閉じると、ふわっと、だけど力強く唇が重なった。
この日のキスは、私が飲んでいたココアとまもちゃんが飲んだコーヒーの味が混ざって大人な味がした。




おわり

20240623

2/2ページ
スキ