部屋とまもちゃんと私



何度目かのデート。まだ付き合ってそんなに経っていないこの日、私はまもちゃんの家に来た。

「お、お邪魔、します」
「くすっ、入って」

初めて入るから緊張で声がうわずる。オマケに上手く言葉が発せず、噛んでしまい、まもちゃんに笑われちゃった。
二回目のまもちゃんの家。でも玄関から入ったのはこれが初めてで。前の時は、力を使い果たして倒れ、気絶してしまって凄い勢いで寝ていたところを連れてこられたから、当然覚えてなんかいなくて。
靴を脱ぎながら、帰りの事を思い出してドキドキしちゃう。

“うさこ”って初めて言われた場所。不意打ちだったから破壊力が凄くて、ドキリと心臓が高鳴った。
それまでは“たんこぶ頭”とか“おだんご”とか呼ばれていて、まともに名前で呼ばれたことなんてなかったからびっくりした。
でも、嬉しかったんだ。誰にも呼ばれたことの無いまもちゃんだけの私の愛称。特別感があって、胸が踊った。その帰り道、私も愛称を考えながら浮かれていたっけ。

今日で二度目。そして付き合って初めてのまもちゃんの家。
きっと、ううん、絶対、特別な忘れられない日になるって確信している。
ううん、今日だけじゃない。これからも、まもちゃんと過ごす日をいつも特別。とびきり素敵な時間。
そんな事を考えながらまもちゃんにエスコートされながら家の中に入って行った。

「適当に座っていてくれ」
「ありがとう」

リビングに行くとソファーがあったので、そこに腰掛けた。
ふとまもちゃんのいる方へ向くとダイニングで飲み物の用意をしてくれているみたいだった。かっこいいなぁ〜なんて思いながら眺めていると、視線を感じたのか、まもちゃんがこちらを見てニコッと笑顔を見せてくれた。破壊力やば過ぎる!

そわそわして、部屋の中をキョロキョロ見回す。ここは初めて見る。前は、寝室に寝かされていて、そこから直接玄関に出たから他の部屋を知らない。
何LDKなんだろう?この部屋、広いし、寝室も広かったし、他の部屋もそんな感じなのかな?なんて考えていると、飲み物の用意をしているまもちゃんに声をかけられた。

「ココアでいいか?」
「うん。まもちゃん、甘いもの好きなの?」
「いや、俺はどちらかと言うとコーヒー派」
「そうなんだ。ど、して?」
「うさこが飲むかなと思って買っといた」

ココアでいいと聞かれ、まもちゃんも甘いものが好きなのかと意外に思ったけれど、やっぱりコーヒー派だった。予想通りまもちゃんは大人だ。
だけど、私のためと聞いて胸がなんだかむず痒くて落ち着かない。まもちゃんの日常に私がいる。私のことを考えてくれていることが嬉しかった。

「そ、なんだ」

なんだか恥ずかしい気持ちにもなる。
ドキドキが止まらないまま、飲み物の用意をするまもちゃんを眺めていた。
その手つきは手慣れていて、毎日入れ慣れていることが伺える。
六歳の時に事故でご両親を亡くしたって言ってた。一人暮らし、きっと結構長いんだろうな。寂しかった、よね?
いつから一人暮らしをしているのか。施設に入っていたのか。今までのまもちゃんのことをまだ私は知らない。知らない事がまだまだいっぱいある。これから共に過ごしていく中で少しずつ、知っていけたらって思う。私のことも、ゆっくり知っていってほしい。

「お待たせ」
「ううん、ありがとう」

まもちゃんの過去に思いを馳せていたら、入れ終わったみたいでリビングまで持ってきてくれた。

「あったかい」
「外、寒かったもんな」

ごく自然にまもちゃんは私が座っているソファーの横に腰掛ける。
さっきまでいた外は真冬だからとても寒くて、ホットココアを一口飲むと体全体がポカポカと温かいのが広がっていくのが分かった。

「そだ、ラスク持ってきたんだ。食べよ」
「サンキュー」

まもちゃんの家に来る途中の洋菓子店で買ったおもたせを鞄から出して渡す。

「ねえ、まもちゃん」
「ん、なんだ、うさこ?」

聞いておきたいことがあった。
私はここで目が覚めるまでまもちゃんがタキシード仮面だって、全然気付いていなかった。そりゃあ一瞬、似ているなって感じたことはあったけど、同一人物だって思わなかった。
それは、タキシード仮面は優しくて、いつも助けてくれたし憎まれ口は叩かない。それに対してまもちゃんはいつも嫌味ばかりで、会えば喧嘩ばかり。
好かれているなんて思ってもいなかったし、私がセーラームーンって知っていてもタキシード仮面としては完璧な紳士を貫いていた。
だから余計に私はまもちゃんとタキシード仮面が一致しなかった。
この家で目覚めてまもちゃんを見て初めて私はタキシード仮面とまもちゃんが同じ人だと分かった。

「いつから、気づいていたの?」
「何がだ?」
「私がセーラームーンだってこと」
「“魔の六時のバス”事件があったことあったろ?」
「うん。え、あの時から?」

“魔の六時のバス”、懐かしい。あの事件でレイちゃんがセーラーマーズとして合流したんだっけ。
でも、あの時から気づいていたとしたら、相当最初の頃だけど、そんな早くからなの?って驚いた。

「いや、あの時はまだだけど、CAに変身したろ?普通の人とは違うって感じた」
「あの時はレイちゃんを助けたい一新だったよ。後先考えてなんか無かった。見られていたんだね」

あっちゃー、無我夢中で助けようとして周り見えて無さすぎだな、私。変身するとこ、見られていたなんて。ルナが知ったら激怒案件だわ。

「ちゃんとうさことセーラームーンが一致したのは舞踏会の時だ」
「え、舞踏会で?」
「ああ、うさこが落としたハンカチを拾って」
「ハンカチ落としてたんだ、私」

知らなかった。不注意にも程があるよ。落としたハンカチで正体バレとか、おっちょこちょい過ぎる。穴があったら入りたい。

「じゃあ、まこちゃんが襲われているのを教えてくれた時は……」
「ああ、うさこがセーラームーンだって分かってた」

そうだったんだ。ずっと、私だって分かっても助けてくれていたんだね。

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