君と月見と
「聞きましたよ、マスター。今日はプリンセスと夜にお会いになるそうですね」
公務前にクンツァイトが心配そうに話しかけてきた。
「あぁ、今日は月見だろ?セレニティと見たくてね」
「それだけですか?」
クンツァイトの問いかけに笑顔で返して話を逸らす。
「心配ならついてくるか?夜は何も仕事ないだろ?」
「…分かりました。夜は危険なのでご一緒します」
「ありがとう、恩に着るよ。向こうも誰か一緒に着いてくると思う」
全く何を考えているのやらと言う言葉が聞こえてきそうな顔でため息をつきながらやれやれと呆れ気味に同意してくれた。何だかんだと優しい奴でありがたい。
リーダーと言う立場上、他の3人より口うるさく言ってくるけど最後はいつも俺を尊重して折れてくれる。
セレニティと月見がしたいというのも勿論大前提だけど、この日はたまたま夜まで公務がびっしりで夜しか空いてなかったから必然的に夜の待ち合わせになった。
セレニティは昼で終わってその後は自由時間で早めに地球に来てゆっくりしていると言っていた。
公務が終わり約束の時間が迫ってきて、クンツァイトと一緒に約束の場所へ向かう。
夜も更けてきて満月とは言えあたりはすっかり暗くなり、人気もない分余計に薄気味悪い。
セレニティも昼とは違う雰囲気に怖がってないか心配だ。誰かと一緒に来ていると思うけど、この闇夜を長く待たせるのは紳士のすることじゃない、急ごうと早足になると護衛のクンツァイトも早足で着いてくる。
「護衛が着いているとはいえ女性2人でこの暗闇に待たせるのは心配ですね」
早足に察したのかクンツァイトが気にかけて来た。
「ああ、明るい時間に来てゆっくりしてると言っていたからこれ以上待たせるのも気が引ける」
話しながら目的地に近づいてくると遠くの方で神々しく光る人影が見える。
ーーセレニティだ
月明かりに照らされてと言うよりは彼女自身の内なる心から自然と照らされ月と同じ暖かく美しい光。月と同じ綺麗な光だ。
彼女が月のプリンセスである象徴だと改めて感じて関心し、魅了される。
初めて出会ったあの日も彼女は一際神々しく光り輝いていた事を思い出した。
その光に惹かれ彼女を好きになった訳では無いが、興味をそそられ惹き付けられた。あの光だ。
「これは…」
横で月と同じ色で神々しく光るセレニティを初めて見たクンツァイトがあまりに美しい光景に言葉を失っていた。
俺たちに気づいた当の本人のセレニティは何でもない風に笑顔でこっちに手を振っているし、護衛のヴィーナスは左手を腰に当て難しい顔でこちらを見ていた。
「すまない遅くなって」
「エンディミオン様、こんな夜遅くにうちのプリンセスを呼び出してどう言うつもりです?」
言い終わるが早いかヴィーナスから怒りの質問が来る。
大切な月の王国のお姫様を土地勘がない地球の危険が多い場所に夜に呼び出したんだ、ヴィーナスの怒りは当然だ。
「セレニティと月を見たくてね」
「月…ですか?」
要件をストレートに伝えるとプリンセスもヴィーナスもキョトンとしていた。
「後はお2人でどうぞ」
呆気に取られている二人を他所にクンツァイトがフォローを入れてくれた。
ヴィーナスの事は私に任せて楽しんで下さいと小声で言い残し、この場から2人で離れていった。助かった。