桜嵐


今現在、俺が置かれている状況をちゃんと説明出来る人がいるとしたら、是非ともお願いしたい。

簡潔に言えば、修羅場と言う奴にあっている。人のでは無く、正しく俺自身が当事者となる修羅場だ。そこにたまたま居合わせた浅沼も巻き込まれている。当然、浅沼自身も当事者として、だ。

俺の目の前には静かに涙を流しながら俯くうさ。うさを挟んで右側に腕を組んで噛み付く勢いの美奈。左側には両腕を腰に当てて仁王立ちで睨むまこちゃん。

ここは公共の施設で俺たち以外にも人はまばらだが、チラホラいる気配はする。
気配はすると言うのは、状況的に見る余裕が無いからだ。とてもじゃ無いが、他に気を取られている余裕は無い。
周りから見ると、俺達はどう映っているのだろうか?
かたやバラバラのセーラー服に身を包んだ女の子三人。そのうち一人は激ギレで、一人は泣いている。もう一人は何を考えているのか読み取れない表情。
男の俺達はエリート校として有名な制服を身にまとっている。そんな俺達は、何でもない中学生に怒られているという構図。
まあ、今日この場に偶然居合わせただけの奴らにどう思われたってこれっきりなのだからどうだって良いんだが。

何故、こんな事になったかと言うと、話は数分前に遡る。

学校が終わって放課後、うさと待ち合わせの公園に行こうと校門を出たところでばったり浅沼と遭遇。うさが来るまで同行の予定だった。
しかし、うさが現れたかと思えば泣いていて、その両横には美奈とまこと。幾ら感が鈍くても二人は怒っていることを察知した。
だが、何故うさが泣いているのかは分からない。すると美奈とまこちゃんが俺に問いかけてきた。

「うさぎ以外の女に現を抜かしていたって本当なの?」
「衛に限ってそれは無いと思っていたのに、ガッカリだよ」

一体何のことか分からず、言葉の意味をすぐには飲み込めなかった。俺が、うさ以外の女性に心を奪われる?有り得ない。

「何の話だ?」

正しく誤解というものだ。俺はうさしか見ていない。うさ以外はいらないし、考えられない。それは美奈とまこちゃんだって分かっているはずだ。
兎に角、詳しく聞いて話し合い、誤解を解かなければと問いかけた。

「惚けないで!そこの浅沼くんと一緒に女の話してたってうさぎが落ち込んでんの!」
「あ、え、ぼ、僕も、ですか?」

ただ成り行きでその場にいたはずだった浅沼も巻き込まれた形になり、突然自身の名を呼ばれ更なる美奈の追求に、浅沼は目に見えて驚き、動揺していた。
巻き込んで申し訳ないと言う気持ちもあるが、そもそも身に覚えがない上に、浅沼と女性の話となると共通の知り合いは少ないし、うさが知らない女性では無い。
つまり、全く思い当たる節がない。本気でお手上げだ。
先程名前が上がった浅沼を横目でチラッと見るが、彼も全く検討がつかないのか困っていた。宛にしていなかったが、使い物にならないと悟る。まぁ、仕方ない。

「ソメイヨシノって、誰よ?」

美奈が口に出した名前の女性に、更に困惑する。そんな女性は知らない。

「ソメイヨシノって人が綺麗だって二人で話してたって、うさぎが」

当の本人はまだ下を俯いて涙を流している。とても言葉を発する状態では無いのだろう。先程からうさの代わりに美奈とまこちゃんが代弁をしているのを見ても分かる。二人が着いてきたのも、うさが喋れる状態では無いことが分かっていたからだ。
美奈はうさとは違う学校なのにわざわざ落ち合ってここに来ている。恐らくまこちゃんが通信機で知らせたのだろう。ご丁寧な事だ。こちらにとっては有難くは無い。
守護戦士一うさが好きな美奈は味方に付ければ頼もしい。だが、敵に回すと厄介な人物。それはもう、とても厄介。
元々俺との交際は認めていない。何時でも何かあれば引き裂くだろう。
今回のこの件は、美奈にとっては恰好の材料となるのは間違いない。だからこそ、最悪だ。
俺は、ヘマを踏んだと言うのか?どこで間違えてしまったのだ?
それにしてもソメイヨシノと言う綺麗な人とは?記憶になく、悩みの海に溺れそうだ。

「学校の先生。あるいは尊敬するお医者さん。はたまた学者、とか。兎に角、芸能人では無いわよね」

考えあぐねていると、名探偵よろしく美奈は推理を始める。
そんな美奈の推理に俺は、なるほどその路線があると乗っかることに決めた。兎に角、この状況を打開できるならなんだっていい。すがる思いで考えてみる。

「分からない。お手上げだ」

少し考えて、頭をフル回転したが結果、尊敬するお医者さんにも先生にも、綺麗な女の人はいない。そもそもうさ以外の女性を綺麗だと思ったりしない。

「俺はうさ一筋だ。間違っても浮気も、他の女を褒めたりしない」
「ぼ、僕だって……」

もうここは潔く降参するに限るとストレートに負けを認める。
同じく追い詰められていた浅沼も、ここぞとばかりに乗っかろうとするが、最後まで言えず、言葉がしり込みしていた。仕方がない。ここで“まこと先輩以外の女に興味なんてありません”なんて口が裂けても言えないだろう。まだ告白もしていないのに、その場の雰囲気に流されてするなど以ての外。最悪の事態は避けたいだろう。告白はタイミングだ。こんな所で勢い余ってするものでは無い。
だが、浅沼も想い人に誤解されるのは嫌だろう。

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