自慢したい彼女と独占欲が強い彼氏

side 衛


「衛先輩!」

学食を一人で食べていると、浅沼に話しかけられてハッとなり顔を上げる。

「ご一緒してもいいですか?」
「ああ」

三学期に入って浅沼に会うのは初めてか。
高校と中学じゃ校舎も違うし、中々合わないもんだな。なんて俺は呑気に学食を食べながら浅沼との相席を快諾していた。

「久しぶりですよね、こうして会うの」
「そうだな。元気、だったよな?」
「ええ、勿論!衛先輩は?」
「ま、いつも通りかな」

当たり障りの無い挨拶程度の会話を展開する。浅沼とは大体こんな感じだ。気を使わなくていい後輩と言うのは心地がいい。
そんな浅沼との会話がまさかの展開になるとはこの時の俺は思いもしなかった。

「またまたぁ〜」
「ん、なんだ?」
「衛先輩、彼女、出来たんですよねぇ〜」
「ブッ!はあ?」

浅沼の爆弾発言に俺は、食べていた物をぶちまける程に驚いてしまった。
え、彼女出来たって断定した?確信しているということか?何故だ?何故、浅沼に知られているんだ。

「どう言う事だ?」

自分でも驚くほど低い声で詰問していた。
浅沼には付き合っている人がいる事は愚か、好きな人がいることすら言っていない。そんな間柄でもなかったし、言う必要も無いと感じていた。

「見てたんですよ。衛先輩が女の人と腕を組んで歩く姿を」

うさこと歩いている所を目撃されていたとは。俺とした事が、迂闊だった。
もっと周りを警戒するべきだった。誰が見ているか分からんからな。平和ボケして警戒心をなくしていた事に気を引き締めなければと改めて感じた。

「後、その後に紹介してもらったんですよ」
「は?誰が誰に?」
「月野うさぎさんを、まこと先輩に」
「え、まこと先輩って?」

浅沼が次から次へと口にした言葉に俺は衝撃を覚えた。
うさこの名前をフルネームで言い当て、まこと先輩と言うどこかで聞いたような名前。考えたくは無いが、まさか……

「木野まことさんです」

やっぱり。ひょっとしなくても、まこちゃんだったか。
二学期のいつだったか、浅沼が背の高い異性と仲良くなったと嬉しそうに言っていたけど、それがまこちゃんと言うことか。
あの頃はまだ互いに正体は知らず、ましてや仲間でもなかった。
うさこと付き合う事になって初めて顔を合わせただけだ。
まこちゃん、余計な事をしてくれたな。

「まこと先輩と衛先輩、知り合いなんですよね?快く彼女さんを紹介してくれましたよ」

浅沼は機嫌の悪い俺を臆すること無く思った事を話してくる。
まぁ、もう紹介してしまった事は仕方が無いとはいえ、俺はうさこを誰にも紹介したく無かったし、する気もなかった。
それが例え浅沼であってもうさこを紹介したいと思っていなかった。取られるとかそう言う風には思って無いが、うさこは俺だけのうさこだ。誰の目にも触れさせたくは無い。

「思っていた人と違ってました。どっちかって言うと、火野さんでしたっけ?火野さんの方がお似合いかと」
「俺のタイプをお前が勝手に決めるな!」
「す、すみません。そう、ですよね」

浅沼の言葉に俺はあからさまにムッとする。うさこを否定された気持ちになったからだが、浅沼はそのつもりは無いだろう。
だが、俺はレイちゃんは苦手だ。気が休まらない。どこか堅苦しい印象だ。
それに四人は、アイツらの……

「うさこの良さは、俺だけが知っていればいいから!」

これ以上の詮索は許さない。その思いも込めて強めにうさこへの愛情を宣言する。
するとその言葉を聞いた浅沼は、ニッコリと笑顔で言い放った言葉に俺は大きなため息と後悔をする事になった。

「衛先輩、彼女さんの事、本当に愛しているんですね」
「はぁ……」

おい、浅沼。何故、そうなる?
まぁ、事実ではあるが……

浅沼に知られてしまったのは仕方がないが、クラスメイトや知り合いに見られないように警戒しなければ。どこで誰に会うか分からないからな。
悪い狼からうさこを護らなければと俺は改めて気を引き締めた。




おわり

20240315 武内直子誕生祭2024

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