金木犀に誘われて
すっかり秋が深まって肌寒くなってきたある日の午後、いつものようにデートで公園の並木道を歩いていると良い匂いがしてきてうさが嬉しそうに走り出した。
視線の先には可愛らしい橙色の花を実らせる金木犀が咲き誇っていた。
「うわぁー金木犀だ!良い匂い♪」
もうそんな季節かと思いながら、さっきまで俺の腕に手を回し密着して幸せそうな笑顔を向けていたうさが離れていった金木犀の木の近くで嬉しそうに笑顔を向けていて不安になった。
「思い出すなぁ~」
平静を装いながらも無邪気な笑顔と一言に心がざわつき胸を掴まれたように苦しくなる。
思い出す?誰を?アイツの事か?
俺が留学するその日、クリスタルを抜かれ消滅した時に生まれ故郷である星を破壊され命からがらプリンセスを探して地球に来たキンモク星人の戦士の1人であるアイツ、星野…とか言ったか?
俺のいない間、うさをずっと守ってくれていたと美奈達に聞かされた。
美奈達も次々クリスタルを抜かれて消滅し、守ってあげられなかったと悔しさを滲ませながらもライツの3人に助けられたと話してくれた。
俺も何の抵抗も出来ず彼女の目の前で消滅してしまい、辛い時にそばにいて支えてあげられなかったことは美奈達の話を聞いてより一層悔しさが込み上げた。
俺はいつもうさの足でまといになってしまうし、肝心な時に守れない、支えてやることが出来ず不甲斐ない。
1人で心細かったであろううさを支えてくれた事には勿論感謝しているが、俺のいない間に他のやつが近くで守っていたと考えるだけで嫉妬で狂いそうになる。
そんな黒い感情が心を支配していたから肝心のうさには詳細は聞けずに今まで来ているし、うさ自身も辛い思いをしたのかその時の事は何も触れずに今日まで来ていた。
それに平和を取り戻し、落ち着いた日常生活であの時出来なかった留学のリベンジをした事もあり聞く機会もなく正直ホッとしていた。
聞くのが怖くて本当のところを聞きたいと思ってもいなかったからうさ自身が話したいなら聞くつもりでいたが、その覚悟は今もできていなかった。
だが遂にその時が来たのか…
いつかは聞かなければならないなら早い方がいいのかもしれない。
うさの口からどんな事が語られようとちゃんと真実と向き合わなければならない。
うさからアイツの事を聞きたくなくて振り向いてきたうさを思いっきり抱きしめ、有無を言わせず唇を重ね最初から深くキスをした。
突然の事に戸惑いながらも素直に受け入れて答えてくれる優しいうさに愛おしさが込上げる。
うさに甘えて暫くキスをして唇を離すと息苦しそうだが笑顔を向けられ良心が痛んで意を決して聞いてみた。
「思い出してたのは星野くんの事か?」
「へ?何で星野が出てくんの?」
キョトンとした顔をして素っ頓狂な声で訳分からないと言った感じで聞き返されこっちが拍子抜けした。
「星野くんってキンモク星の戦士だったんだろ?」
「あー!本当だ!流石まもちゃん頭いい~。オヤジギャグって言うの?上手い!」
そう言われ覚悟でガチガチに固まって怖がっていた心が解けていく。
「違うのか?」
「違うよ!まもちゃんとの事だよ!覚えてないの?前世で一緒に金木犀見ようって言ったこと」
言われるまで忘れていて愕然とした。
そして安堵した。うさが思い出すと言ったのは前世での約束だったのか。それなのにそうとは知らずに俺は…。
「ああ、結局一緒に見れずに終わったんだったよな?」
金木犀の咲く時期はいつもバラバラで、咲いてる期間も短くて、セレニティとはタイミングが合わずいつも散った後に会っていたから残念がって悲しんでいた。
生まれ変わって付き合ってからも戦いや中間テスト前だったりとバタバタしていて結局今の今まで金木犀を一緒に見られていなかった。
「そーなんだよねぇ。やっとまもちゃんと一緒に見られてすっごく嬉しい。ずっと一緒に見たかったんだ」
嬉しそうに微笑むうさを見てホッとした。