美奈レイSSログ
『ナンパ野郎にご用心』
感情を表に出す事が苦手な私には、感情豊かでいつも明るい彼女がとても眩しくて、憧れだった。
そんな彼女の存在が、私の心の、生活の支えになっていた。
高校に入っても彼女は相変わらず息をするように《彼氏ほしい!》《イイオトコ、落ちてないかなぁ~》なんて言っている。
彼女が本気を出したら、すぐに恋人が出来そうなのに本気を出そうとしない。
それはきっと、やっぱり本気の恋をする事でうさぎを守れなくなるのが怖いからなのだろうと思う。
相手にも、一番に想ってあげられないことに少なからず罪悪感があるのかもしれない。
だからだろう。中学で違う学校だった彼女は、うさぎと同じ高校に行く事を選んだ。
私はと言えば、中高一貫校のエスカレーター式。
同じ学校に通う、と言う選択肢は無かった。
けれど、高校生活が進むにつれてみんなと違う学校である事に寂しさを感じてしまった。
あのはるかさんとみちるさんですら同じ学校に通っている。
何故、四守護神である私が離れているのだろうとフッと疑問に思ってしまった。守護戦士として、失格では無いのかと……
中学時代は、彼女も別の学校だったから、ここまで寂しさはなかった。
別の学校に行っている美奈が、心の支えだったのだと一人孤独に高校生活を送る中で芽生えていた。
「レイちゃん、遊びに行こう!」
私の気持ちを知ってか知らずか、美奈はそんな孤独な私にコンスタントに誘ってくれる。
お互いに運動部に入っている為、部活で忙しい合間に2人でショッピングに行くのが私の楽しみだったりする。
ショッピングも彼女の独壇場で、美奈の行きたいところに振り回される形でついて行くだけ。これも至福の刻。
金色の髪を靡かせて、喜々として楽しむ姿を見るのが楽しい。
美奈の一挙手一投足が私の心をザワつかせる。
私の知らない世界へと連れて行ってくれる。そんな予感がするの。
実際、視野が広がった気がする。
「綺麗な髪の色ね」
心の底から出た本音。
「レイちゃんの髪の毛だって、とっても綺麗よ?羨ましいくらい」
明るい美奈にピッタリの金髪が、美の女神の美しさを際立たせ、強調させている。
そんな美奈に、髪の毛を褒められて、嬉しくてどんな顔をすればいいのか分からないでいる。
今私は、どんな顔をしているのかしら?おかしくは無いかしら?
「私の髪は、別に……」
クールな私に相応しく、黒い髪の色。根暗を強調するような色で、嫌い。
「レイちゃんに映える、綺麗な髪の毛だと思うわよ?私には似合わないもん!羨ましいわ」
明るい美奈に映える金色の髪の毛に対して、私はクールな私に相応しい黒い髪の色。
まるで対比の様な髪の色に、お互いが羨ましく思って憧れを抱いていたなんて、何だか嬉しくなった。
私に無いものを持っている美奈でも、私に憧れてくれていることが単純に嬉しくて。
《美奈になりたい》
そんな事を言ったら、美奈はどんな顔で反応してくれるかしら?
恥ずかしくて言えないけれど、想像だけはしてしまう。
美奈だって色々あるだろうけれど、それでも過去を乗り越えてポジティブに生き生きしている。
馬鹿なのは流石にノーサンキューだけれど、美奈のその底抜けの明るさに憧れて止まない。
ショッピングをしながらそんな雑念で美奈を見つめていたら、不意に知らない人から声をかけられた。
「彼女たち、二人だけ?」
「俺らも二人なんだ。ちょうどいいから、遊ばねぇ?」
ナンパ師だった。いかにも慣れていそうな雰囲気。気持ち悪い。
他を当たってくれないかしら?と煩わしく思っていたけれど、声には出さずに無言の抵抗を貫こうとした。その時だった。
「お生憎様!あたしたち、もうとっくに命を捧げた人がいるの」
美奈が、あの時のセリフでナンパ師を一蹴した。
キッパリ言い放った言葉は、余りアツがあって美しくて、ナンパ師はたじろぐ。
「そうよ、だからあたし達、男なんかお呼びじゃありませんのよ!」
そんな美奈に続いて、あたしもあの時のセリフで応戦する。
「わるい?」
二人同時に言い切り、ナンパ師は完全に呆気に取られていた。
「それじゃあ、お元気で!」
戦意喪失したナンパ師二人に美奈はそう捨て台詞を吐いて、あたしの手を握り、その場にナンパ師を置き去りにして猛ダッシュした。
どれくらい走っただろう。二人とも戦士と部活で鍛えた体力は尋常ではない程無限で、疲れることを知らない。
大分走った所で美奈は、やっと止まる。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
呼吸を整え、落ち着かせる。顔を見合わせると、自然と笑顔になる。
「プッ」
「アハハハハハハハハ」
先程の一連の出来事に、笑いが止まらなくなる。
美奈の笑った顔を見て、やっぱり美しいと思った。それと同時に、反則だとも。
あんな事を自然と、当たり前に出来てしまう美奈はやっぱり最強だと思う。
走った後だということもあるけれど、心臓がドキドキと高鳴って、うるさい。
ナンパ師にさえ靡かない、守護戦士リーダーとしての覚悟を見た気がした。
同時に、美奈の横はあたしだけの場所だと期待をしてもいいのかな、なんて淡い期待をしてしまう。
愛の女神の威力は、凄まじいと美奈の笑顔を見て感じた休日の午後だった。
おわり
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