いつでも傍で
私達のプリンセスに事もあろうか、勇猛果敢にも根気強く言い寄る男が現れる。
好きだった人が政略結婚をして失恋した過去や、好きな人を束縛してしまうという理由により月の姫に純潔を誓い、恋はしないと心に決めている。
そんなレイ様を口説こうとしている男の外見は金髪でいかにも女モテしてそうなチャラ男。ーー名前は大東和永。
カッコイイけど私達の書類選考は落ちたわ。
レイ様自身も何度も火川神社に足繁く通いつめ、言い寄っているのを見たけどいつもクールにして相手にしていない様子だし。ーーいい加減諦めればいいのに、なんて思っていた。
でも余りにもしつこく火川神社に来るから私達も少しイライラしちゃって、来る度にカラス姿で威嚇して突っついてやった。ーーかつて月の姫の生まれ変わりである“月野うさぎ”さんにしたと同じように。
それでも彼は諦めなかった。
彼はレイ様が現世でセーラーマーズとして覚醒するきっかけとなった人物で、 マーズ自身が殺した人物。
そして前世でもセーラーマーズに恋をしていて、月の王国が滅びたその日にマーズ自身の手にかけられた男。ーージェダイト。
どういう訳かまた再転生してきたかと思えば、また私達のプリンセスを好きになって追いかけ回してる。
悪く言えば執拗い。良く言えば根気強い。
そんな前世から魂レベルで惹かれるくらい好きなのだから認めてあげれば良いと思われるけど、レイ様が嫌がられている以上はこちらも認めるわけにはいかない。
認める時、それはレイ様が彼を好きになり付き合う事になった時。
まぁ男嫌いで月の姫に純潔を誓っているレイ様が御付き合いをそう簡単には許すとは思えないけど。お手並み拝見ってとこね?
そんなある日、またここ火川神社にやってくるのが見えた私達は今度は人間に姿を変え、境内で待ち構えることにした。
階段を登ってきた男は多少息切れして体力を消耗しているようだったけれど、人間姿の私達を見て驚いた顔をすると共に頭上をとても気にしていてキョロキョロとしている。
「カラスならいないですよ?」
「何故それを?」
話しかけると何故カラスを探していると分かったのか更に不思議な顔をしている。
「私達がそのカラスなので」
「はぁ?何を訳の分からないことを言ってんだ?」
状況を把握出来ずにいるのか意味が分からないと戸惑いを隠せないでいる。当たり前の反応だと思う。誰がカラスが人間に化けると想像出来るだろうか?
「申し遅れました。私はレイ様の側近の1人、カラスのフォボスです」
「同じく私はディモスですわ」
「どうも大東和永です。……ってええ?あのレイさんが可愛がってるカラスが君たちって?え?どういう事だ?」
益々大混乱を極めているようだった。
仕方ないにしても状況把握処理能力が鈍くて流石にイライラする。
「私達、レイ様のお目付け役としてずっとカラス姿で見守っておりますが、本来は人間の姿なのです」
「鍛錬していますから自由自在に人とカラスに変化する事が可能なのですわ」
「なるほど、何かあったら1番動きやすい鳥になって見守ってるって訳か……。流石月の王国」
やっと飲み込んでくれたようだった。
「そういう事ですわ。ところで今日が何の日かご存知でこちらへいらっしゃったのですか?」
「ああ、レイさんの誕生日だと聞いたので、プレゼントを渡したくて……」
言葉通り手にはプレゼントと思しき白い花束を持っていた。ーーカサブランカだ。
赤が似合うレイ様に白い花、それも事もあろうにカサブランカとは分かってるのだろうか?
昔レイ様がお慕いしていた海堂さんが誕生日にいつも送っていた花。
それを贈って喜ばれるとでも……?
「その花を贈るつもりですか?」
「レイ様はまだ学校からお帰りになっていませんわ」
「なら帰ってくるまで待ってるよ」
部活があるから遅くなるかと思っていたレイ様はそれから程なくして帰宅して来た。
「ハッピーバースデー、レイさん♪これ、誕生日プレゼントのカサブランカ。貴女に似合うと思って」
「何故あなたが……?あなたに貰う覚えは無いですわ!」
待ち人を見るやいなや嫌悪感に顔を顰め、更に誕生日プレゼントとして渡されたカサブランカの花束を見て更に嫌な顔をして一旦断りつつも渋々受け取っていた。
カラス姿に戻った私達は2人のやり取りを頭上で見守る事にした。
この恋の行方が今後どんな展開を迎えるかは神のみぞ知るって所だろう。
どんな結末になろうとも私達はレイ様の近くでこうして見守り、寄り添うだけ。
これから何年、何十年と一緒にいられるかは分からないけれど、私達はいつもレイ様の傍にずっとお仕えするだけ。
一緒に年月を重ね、こうしてレイ様のお誕生日を迎えられれば、それが私達の幸せの形なのだからーー。
おわり
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