水野家SS
『やっぱり猫が好き』
「猫が飼いたい」
幼い私が今出来る精一杯のお願いを、離れているお互いの心を繋ぎ止めたくて。渾身のお願いを2人に申し出た。
幼いのに母に似て物心ついた時から頭が良い私は、リビングの机に置かれた紙切れを見て絶望した。
“離婚届”と書かれたその紙切れに、両親の名前と他の人の名前が書かれている。
その漢字の読み方と、意味するところが理解出来てしまった私は、瞬時に悟っていた。二人は別の道に進むのだと。
こんな事を知りたくてお勉強を頑張っていたわけじゃない。こんな事を知る為に頭が良くなりたいわけじゃ無かった。何て残酷なんだろう。
いいえ、私が頭が良くなったのはきっと意味があるはず。そう、2人の中を取り持つ為なのでは?何て自惚れてみた。
猫を二人に持ち出したのは、二人が猫が好きだったから。私も、二人の影響で猫が好きだから、繋ぎ止めるならこの方法しかないと思って。
「亜美、前から言っているけど、マンションだから飼えないのよ」
「すまない、亜美……」
遠回しに断られ、やっぱりなって感じだった。
それに、そこまで二人の仲が冷えている事にも少なからず衝撃だった。
確かに二人はいつもスレ違いの生活を送っていた。父は画家で曜日や時間関係なく絵を書いていたし。母は医者で土日祝や昼夜なんて関係ない。
それでもそれなりに、二人が喋ったり笑顔になったりしているのを見ていたから、上手くいっているのだと思ってた。
だけど、いつしかスレ違いの中でも顔を合わせることも話しているところすらも見かけなくなった。
空気さえも読めてしまう私は、二人が冷めて行っていることに気づいてしまった。
どうして二人が冷えきってしまったかまでは分からない。もしかしたら私が、勉強ばかりしていて子供らしくない大人びた所があるのが原因なのかな?なんて考えてしまったりして。ーーー考えすぎなのは分かっているけれど。
だから、子供らしく猫が欲しいと駄々をこねれば。滅多にしないお願いをすれば、もしかして……なんて思って二人に頼んだの。
結果は火を見るより明らかで、やっぱり撃沈だったけれど、しないで諦めるより行動してちゃんとダメな方が諦めがつく。やるだけやったのだから、と。
猫が飼いたいのは、私の本音でもある。
ずっと両親にお願いしていたけれど、ずっとダメで……もしかして、二人の仲が取りもてなくても、罪滅ぼしで買ってくれるんじゃないかってどこかで期待していたのも事実で。
結果的に、何も上手くいかず私の策略は砕け散ってしまった。でもいつか猫が飼いたい。悲しい想い出になるのは嫌だから。
そんな事を心の片隅に常に置きながら私は勉強に邁進して成長して行った。
そして中学二年になったある日、私は運命の出会いを果たす事になった。あの日以来、ずっと勉強ばかりして孤独な人生を送っていた私を救い出してくれたのは、黒猫だった。
空から降ってきたから、思わず天使みたいだと思ったけれど、それはやっぱり間違いじゃなくて。本当に天使だった。
勉強ばかりの私を、その頭脳が必要だと言ってくれた仲間。心地よい居場所を作ってくれるうさぎちゃんに、母目線で接する黒猫のルナ。
戦いは正直怖いし不安でこの先どうなるかは分からないけど、必要としてくれる仲間と共に私は、この先も頑張れそう。そんな予感がするの。
私を見つけて、必要としてくれてありがとうね、ルナ。
おわり
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