サターンとカルテット
『サターンに沈黙の鎌』
「ジルコニアにしたの!」
嬉しそうに笑顔で報告してきたセーラーサターンに、セレスを始め、セーラーカルテットの四人は衝撃が走った。
と言うか寧ろ戦慄し、絶望した。
「い、今なんて?」
この中で一番強いセーラージュノーが恐る恐る聞いた。
「うん、歯をね?ジルコニアにしたのよ」
聞かれたサターンは得意げに歯を見せながら先程と同じ言葉を繰り返した。
なるほど、口元を見ると歯が綺麗になっている様に見える。
歯を総入れ替えしたのだろう。この前までも綺麗な歯が見えていたが、段違いだ。
「……なんてこったorz」
「サターン様にジルコニアオババなんて……」
「鬼に金棒ってやつですわん」
「パラス、怖いの〜」
サターンから繰り返される“ジルコニアの歯”と言う単語に、セーラーカルテットの四人は絶望し、奈落の底に突き落とされる感覚を覚えた。
サターンでは無く、他の戦士やカルテット直属のプリンセスーースモールレディならまだここまで震え上がらなかっただろう。
他の誰でもない。サターンだからこそ来る恐怖。
と言うのは、ジルコニアには騙され利用されるだけされると、疑問を持った途端石に変えられてしまった過去がある。
一方、サターンには目覚めなければ死あるのみだと言って沈黙の鎌を突きつけられた。
そんな二人がこんな形で共演しているなど、恐ろしくて仕方がない。
しかし、そうとは知らないサターンは、新しい歯が嬉しくて下っ端であり教育をしているカルテットに自慢している。
別に歯を入れ替えるなとは言わないが、何故よりによってジルコニアを入れたのか。そして、何故自分たちにわざわざ報告しに来たのか?
それが理解出来ず、カルテットは恐怖で固まってしまった。
「何故、ジルコニアなんですか?」
「強度や耐久性に優れているからよ」
「他にもありそうですが?」
「他にも変色の心配は無いし、汚れが付きにくい。それに口臭もないから行きスッキリなのよ」
「へ、へぇー」
「利点が多いんですね?」
「そうなの!これから何百年と生きるわけだから、寄り良い歯を入れるに越したことないからね」
「そ、そうですね……」
“ジルコニア”の利点を説明された挙句、長寿と言う言葉を出されてはカルテットも返す言葉が見当たらない。無理矢理作り笑いをして同調するに至った。
「あなた達も、どう?」
「……どう、とは?」
何を勧められているのか、恐る恐るベスタが聞き返した。嫌な予感を隠しながら。
「勿論、ジルコニアを入れることをよ!」
当然でしょ?何言ってるの?と言わんばかりに言葉が返ってきた。
カルテットはやはりそうかとガックリした。
「いやぁー、ジルコニアは、ちょっと……ねぇ?」
「そ、そーそー、私たち四人ともアレルギーなのぉ〜」
「そう、それは残念だわ」
サターンの提案に、苦し紛れだが機転の利いた理由で難を逃れ、カルテットは心底ホッとした。
これで誤魔化せたことに感謝しか無かった。
「キングもマーキュリーも、プルートもカルテットの歯を心配しているわ」
聞くところによるとクリスタル・トーキョーの人達はカルテット以外はジルコニアに入れ替えたらしい。
後はカルテットを残すのみで、医療に従事した経験のあるキングがジルコニアを推奨しているのだとか。
寄りにもよってあれだけジルコニアの呪いに苦しめられたキングがこの名前を覚えていないわけは無いのとカルテットは残念に思った。
「結局はクイーンの考えに寄せてるんだろうな……」
ベスタの妙に納得した考察に、セレス達も大きく頷くのだった。
おわり
20241108 いい歯の日
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