サターンとカルテット
『破られた沈黙』
それは突然の事だった。
ちびうさちゃんと2人、平和な日々が脆くも崩れ去ったのはーー。
「よ、ほたる姉貴!」(ジュノー)
「ごきげんようですわ、ほたるお姉様」(セレス)
「やっほー、ほたる姐さん」(ベスタ)
「ほたるお姉ちゃん、お久なの~」(パラス)
そう言って未来からセーラーカルテットが、揃って過去(こちら)へとやって来た。
四者四様とはよく言ったもので。挨拶の仕方も四人それぞれに個性が出ていて。
ただ、一貫して私を“姉”と慕ってる。
何となく理由は分かってる。
きっとあの時の戦いで、セーラーサターンとして敵対していたアマゾネスカルテットと対峙した時の私がかなり怖かったんだと思う。
「目を覚ませ さもなくば死あるのみ。お前たちは亡者に操られているだけよ」
彼女達の秘めたる星の力に、真の覚醒に気づいたから、闇の力から解放してあげたいって、思ったの。
沈黙の星、土星を守護に持つ破滅と誕生の戦士として、彼女達を導いてあげたくて。手を差し伸べたの。
結局、戦いの中では彼女達を説得出来なくてジルコニアに玉にされてしまったけれど……。
きっとあれで、彼女達には“怒らせたら怖い人”として認定されちゃったんだろうなって思ってる。
だから、こうして四人ともまさかの“姉”と呼んで慕ってきたんだと思う。とても不本意だわ。
あの時はもっと身長が高かったけど、今はちびうさちゃんと同じくらいに縮んじゃってるし……。
年だって多分私の方が普通に若いと思う。
だって、30世紀から来たんでしょ?
ちびうさちゃんの守護神なんでしょ?
ちびうさちゃんが、スモールレディが産まれる前からネオ・クイーン・セレニティに任命されていたとしたら、900歳は超えてるわけでしょ?
現に、あの時「目覚めはまだ先だから」と眠りについて行ったし。
スモールレディが産まれる前が目覚めのタイミングって事だよね?
ちびうさちゃん同様、見た目はセーラーカルテットとして現れた時と変わらない若々しい姿を保ってる。けど……
私より明らかに年上の人に“姉”と慕われてるのは正直、複雑……。
例え、彼女達からしてみれば生まれたのが私のが早いとしても。
それに、知らない人達から見ると、とってもへんてこりんじゃない?
小さい子が大きい子達を従えてるとか!
どういう状況?ってならない?
あの小さい子は四人に一体どんな凄いことをして慕われたの?弟子になったの?って思われない?
絶対!変な評判がつきそうなだけに、気が重い。
「……ってゆーか、何しに来たの?」
「修行って奴をしに」(ジュノー)
「クイーンからの命令ですわ♪」(セレス)
「スモールレディをお願いってね」(ベスタ)
「次いでに過去で色々経験して来てって」(パラス)
やっぱり、そーゆー事ね。
クイーンになっても、うさぎお姉ちゃんはうさぎお姉ちゃんだわ。
「事情は分かったけど、どうして“姉”って呼ぶの?」
こっちに来たことは仕方ないと受け入れるとしても、どうしても納得出来ないのが“姉”呼びだ。
「俺たちの指導係だから」(ジュノー)
「年上だから敬うのが当たり前ですわん」(セレス)
「色々お世話になってるんで、当然の事さ」(ベスタ)
「クイーンにサターンって呼んじゃダメって言われたの~」(パラス)
なるほど、大凡の事情は把握出来たわ。
要するに、未来の私はセーラーサターンとしてカルテットの指導係として面倒を見ていて、一目置かれてる。
でも、過去の私はセーラーサターンはして無いからクイーンであるうさぎお姉ちゃんに愛称で呼ぶよう言われたってわけだ。
怖がられてる訳では無いとしても、でも!
事情の全く知らない赤の他人から見るとやっぱり絶対めちゃくちゃ滑稽だと思う。
「って事でよろしくな、ほたる姉貴」
「仲良くしてくださいな、ほたるお姉様」
「よろしく頼むな、ほたる姐さん」
「よろしくなの~、ほたるお姉ちゃん」
言ったところでクイーン命令だから治らないんだろうな……。
「分かったわ……こちらこそ、よろしくね」
事実上の敗北宣言。渋々、受け入れることにした。
ちびうさちゃんと2人、平穏な日々は終わりを告げた。
セーラーカルテットの四人がどんな子たちなのか?初めて接するから未知数だけど……。
騒がしい生活になりそうなのは間違いない。
おわり