四重奏の煌めき


そして、もう一人。癒しを求めてやって来る人がいる。その人物も、公務を終えて今コチラへと向かっていた。

「セレニティ、スモールレディ~」

扉を叩く事無くやや陽気に入って来たその人物こそ、クイーンの夫でありスモールレディの父親。
そして、この太陽系を統べるキング・エンディミオンその人である。

「お帰りなさいませ、ご主人様」

クイーンより我先にとそう挨拶したのはセーラーカルテットだ。彼女達が集合しているのを確認したキングは状況を瞬時に理解した。

「またお前たちか……」

彼女達が入り浸っている事は、キングにも知られた事実。いくらスモールレディの側近戦士だからと言っていささか来すぎでは無いかと心の中で愚痴る。
クイーンが容認している分、キツくは言えない。王様の威厳、どこへやら。
せっかく癒されたくてコチラへ来ても、これではスモールレディを抱っこは愚か、クイーンとのラブラブな時間も設けられない。キングにとっては蛇の生殺しの時間だ。

「まぁまぁ、この子達も疲れているのよ」
「それは分かるが……」

呆れつつもキングは、自然とクイーンの隣へと腰掛ける。ついでにクイーンの肩に手を回す。最早癖である。

「四守護神にこってり絞られたみたい」
「そうか。四天王は、どうだ?」
「クンツァイト様は相変わらず何考えてるか分かりませんわん」
「ゾイサイト様は楽しい方でぇす」
「ジェダイト様は真面目が過ぎますね」
「ネフライト様はジュピター様のケツばっか追いかけてるぜ……(呆れ)」

四天王にもストレスを抱えている次世代の乙女たち。
そりゃあ、癒しを求めたくなるわな。と昔から彼らを知るキングは察した。

「お勤めご苦労様、エンディミオン」
「ああ、ありがとうセレニティ」

実はそんなキング、産休も育児休暇もちゃっかり取っていた。
産休は1ヶ月、そして育児休暇は1年。本当はもっと長く取りたかったが、リーダー夫婦から怒りの鉄槌が下りあえなく復帰。
と言うのも、一年分の仕事が溜まりに溜まっていると仕事場に引きづられ、山積みになっている書類を強制的に見せられたのだ。復帰せざるを得なかった。

「この子達、今日はジュピターのカリキュラムだったんですって」
「ああ、仕事部屋から見えていたよ。頑張っていたね」
「頑張ったなんてもんじゃないですわん」
「山登りと下りを全力疾走30セットなんてぇ」
「何の罰ゲームかと思いました」
「俺は楽しかったけどな」
「容赦無い内容だな……」

俺でも無理だ。そちら側では無くて良かったと内心ホッとするキング。

キングを交えながら、カルテットはスモールレディを囲んで癒されていた。
しかし、そんな時間もいつまでも続かないからこそ尊いと言うもの。

クイーンの部屋へと歩を進める者が一人。
そして、扉を三度ノックする。その人物とは?

「クイーン、セーラーサターンです」

声を聞くやいなや、四人の乙女たちはビクッと体を硬直させる。そして、次々にこう囁く。

「サターン様ですわん」
「あの目、怖いよぉ」
「沈黙の鎌怖い、沈黙の鎌怖い……」
「殺されるんだ、俺たち」

それを、キングは横目で見逃さなかった。
やっと、四人がこの場を去る時間が訪れた合図だと察したからだ。

「お入りなさい」
「失礼致します」

クイーンに入室許可を貰ったサターンがゆっくりと入って来る。
それを見ながらカルテットは姿勢を正した。
サターンは、カルテットの教育係。唯一にして絶対的に頭が上がらない相手である。

「カルテット、やっぱりここにいたのね!私だってスモールレディと……(以下略)」

スモールレディの誕生をカルテット以上に心待ちにしていたサターン。会いたい気持ちを抑えて任務に当たっている為、カルテットには色々不満が溜まっている。

「これから私と外の見回りでしょ?」
「すみませんでした!」

絶対零度の、いや寧ろマイナスの冷ややかな顔を向けられ長い説教を正座で聞いていたカルテットは、怯えながらも元気よくハモって返事をする。そうしないと後が怖いからだ。

「さ、行くわよ!」

そう行って沈黙の鎌でカルテットの方向を指す。

「ヒィッ」

沈黙の鎌の煌めきに、殺されると心の中で覚悟を決めた四人の乙女たち。
この後のことを考えただけで気が重かった。サボっていた訳では無いが、時間があったからスモールレディの所へとやって来たのだ。
楽しい時間はあっという間に過ぎ、精神がすり減る時間が訪れた。午後はとっくに6時を超えていた。

「お騒がせ致しました」
「失礼致しました」

そう言って去っていたサターンと次世代の乙女たち。その姿はまるで警察と犯人の様だったとキングは言う。いつまでも語り継がれる伝説の一つ“サターンとカルテットのケイドロ”誕生だったとか。

かくして四人の乙女たちは、今日も日や戦士と騎士の先輩方の下、立派なプリンセスを守る戦士となるべく修行に励んでいる。

頑張れ、次世代の四人の乙女たちよーーー




おわり

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