第二章 交差


まもちゃんがいない誕生日が終わり、7月になった。梅雨も留まることを知らず、雨の日が増えている気がする。
七夕が近付いているけど、週間天気予報はやっぱり雨予報で……
まもちゃんと過ごせない事が確定している七夕の雨は、寧ろ歓迎だけど。そんな自分の気持ちを写しているようで、益々気分が落ち込みそう。
そう言えば、一学期末のテストももうすぐだっけ?

「まもちゃん……会いたいな」

この前の私の誕生日にまもちゃんから貰ったプレゼントを見ながら、ポツリと呟く。
送ってくれたプレゼントは、腕時計。しかも普通の時計ではなくて、時計の部分が開けられるようになっていて。所謂、ロケット時計。その中には、ハーバード大学の正門前に立っているまもちゃんの写真が入っていた。
いつでも身につけられる上に、まもちゃんもいつも見られる。こんな最高なプレゼントは無い。開封して、添えられていた手紙の内容に説明が書かれていたのを読んで、確認してとっても嬉しかった。
2年前、ちびうさに似たような物をあげていて、嫉妬したのを思い出す。もしかして、まもちゃんもこの事を引っかかっていたのかな?

「大切な時計が、2つになっちゃったわね」

トレードしようと約束したっきり、出来ずに持っていた懐中時計も取り出した。
まもちゃんからの時計、こうしてみると変わったものが多いな。

「うさぎー、夕飯よー」

物思いにふけっているとママが呼ぶ声が聞こえて来た。
まもちゃんに会えなくても食欲だけは無くならないようで、毎日沢山食べている。まもちゃんも、アメリカンフードを堪能しているかな?なんて思いながら、リビングへと向かう。

「あ!笹の葉じゃん!」
「近所の人から貰ったのよ」

夕飯を食べ終わると、笹の葉を飾り付けることにした。
勿論、お願いごとを書いた短冊も忘れない。

“まもちゃんに会えますように”

家族に見られるけど、隠してないから別にいい。
案の定、私の願い事を見た進悟が引いていた。

「衛さん、今はアメリカだろ?夏休みは帰ってくるかもしれないけどさ」

遠距離恋愛をした事ない進悟に、私の気持ちは分からないよ!
こうして藁にもすがりたい想いなの!
今すぐ会いたいし、まもちゃんに触れたい……。




そして、あっという間に七夕の日がやってきた。
週間天気予報の通り、やっぱり雨が降っていて、星なんて見えない。

「織姫と彦星、逢えたかなぁ……」

私とまもちゃんは会えないけれど、せめて2人が会えていたなら救われる。
だけど、この雨だとやっぱり会えないのかな?前世の私たちより会えてないし、悲劇だよね……。

織姫と彦星は夫婦だけど、天帝の怒りを買って離れ離れにされて1年に1度しか会えない。
前世の私たちは禁断の恋だけど、時間があれば会っていた。

そんな前世のセレニティとエンディミオンが今の私達を見たらどう思うだろう。人目を気にしてあっていたあの頃よりも、距離のせいで会えないでいる私とまもちゃん。

自由に会えるようになったのに、振り返ると七夕は会えずにいることが多い気がする。
中二の時はそもそも付き合ってなかったし、中三の時はゆっくり過ごせたけど雨だったし。
高一の時は、まもちゃんがネヘレニアの呪いにかかっていて、会うことすら出来なくて。
それに、付き合ってからすぐにちびうさがやって来て、2人になるチャンスも中々無いし。
普通のカップルじゃない私達は、戦士として敵と戦う使命を持っている。だから、中々イベント関係をゆっくり過ごせない。
せめてちびうさがいたらな、なんて思う。
まもちゃんとどこか似た、面影を持ったちびうさが……。

「うさ、そっちは七夕か?」

七夕の今日もまもちゃんから国際電話が入る。

「うん、相変わらず雨だよ~」
「そうか、梅雨だもんな。こっちは天気いいぞ。七夕は無いけどな」
「そっか~本当に文化が違うね」
「七夕、帰れなくてごめんな」
「仕方ないよ。勉強しに行ってるんだもん」
「寂しくないか?俺は、寂しい……」
「まもちゃん……私も、寂しい!会いたいよぅ」

まもちゃんの“寂しい”に、我慢していた感情が一気に溢れ出る。電話越しに泣いてしまい、涙が止まらない。
まもちゃんには元気な私を記憶に残して欲しいのに……。

「うさ、愛してる」
「私も大好きよ、まもちゃん」

七夕の通話は切ないままに終わってしまった。
七夕の伝説が伝説だけに、私たちもセンチメンタルな気分になってしまったみたい。
でも、まもちゃんも同じ気持ち、同じ思いでいてくれたことが、とても嬉しかった。心が少し、軽くなったような気がする。

電話でまもちゃんも、前世より会えていない事に触れていた。
そう、あの時は禁断の恋で会ってはいけないと理解はしていても、心と体は別だった。

前世以上に会いたいとは言わない。けど、織姫と彦星以上には会いたいな。
だから、夏休みは帰ってきてね、まもちゃん。

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