第二章 交差


ハーバードに来て、2ヶ月程が過ぎた。
初日こそうさに連絡しそびれるほど忙しかったが、大学に通い始めると安定してきた。
丁度留学始めた時は、こちら側は後期の講義が始まって間も無くと言ったタイミングで。何とか滑り込みセーフだった。
そして今は6月の後半。

「もうすぐうさの誕生日か……」

下宿先の部屋で空を見上げながら呟く。そんな今日は、満月でとても綺麗に輝いていた。落ち着く光だ。どこにいてもうさは輝いているな。
こちらは日本とは違い、梅雨では無い。雨季なんてものは存在しない。
日本は今もきっとずっと雨で、俺もいない事とテスト前ということも相まってきっと憂鬱な気分になっていることだろう。いや、そうなっていて欲しいという願望でしかないが……。

「今年もうさの誕生日は祝えないか……」

初めてのうさの誕生日は、中間テストの結果が散々過ぎて育子ママの怒りを買い、勉強三昧で会えなかった。
次の誕生日は、デッドムーンとの戦いで呪われて体調が最悪でそれどころではなかった。
3度目の今回は俺が留学して、帰ることが出来ずだ。

「会いたいな、うさ」

直接会って祝ってやれないなんて……
前世の俺が聞いたら衝撃だろうな。
禁断の恋をしていたあの時ですらセレニティの誕生日は直接会って祝っていた。
あの時は、月と地球と言う計り知れない距離の中でも自由に会えていたというのに。

何かあった時にと持ってきているゴールデンクリスタルを手にする。
うさの銀水晶はうさの心次第で動く。俺のもそうだろうと前に助言されていた。
きっと俺がゴールデンクリスタルに“うさの元へ行きたい”と願えば連れていってくれるだろう。だけど、それは反則だ。
そしてうさも同じ事を考えて、思いとどまってくれているだろう。

日本へは帰れないけれど、当日は真っ先に祝おう。プレゼントもどうするか早く考えないといけないな。
そんな事を考えながら眠りについた。

そして、6月29日の朝を迎えた。
時差があるため、日本が30日を迎える頃はこっちはまだ29日の朝の10時頃。一応平日だから大学はあるし、講義の時間だ。
普段は真面目な俺だが、この日は1限目の講義はパスしてうさに電話する事にした。
問題は眠子なうさ本人が起きられているかどうかだ。

「もしもし、まもちゃん?」

時差を乗り越え、日本では日付が変わったであろう時間にうさに電話をかけると、何とか起きていたようで、速攻で出た。

「うさ、偉い!ちゃんと起きてたな?」
「もう、まもちゃんの意地悪!当然じゃない。絶対!かかって来るって信じてたもん」

声だけでも元気を貰える。うさは声だけでもコロコロ変わるから、今どんな表情で喋っているかが手に取る様に分かる。

「そうか。じゃあ、改めましてお誕生日おめでとう、うさ」
「まもちゃん、ありがとう。うさ、とっっっっっても嬉しいよ」
「でも、ごめんな?会えなくて……」
「ううん。分かってるから大丈夫だよ」

うさにお祝いの言葉が言えたことは嬉しかったが、やはり直接顔を見て言ってやりたかったとうさの声を聞いて思ってしまった。
うさも、理解はしていても寂しいだろうと思う。なのに、強がって気を使って。大人になろうとしている彼女に、物理的な距離以外にも、心の距離も感じて。少し寂しく思った。

「プレゼント、明日の夕方、うさが帰ってくる頃には届いてると思う」
「わぁ、プレゼント買ってくれたんだ。ありがとう。何だろう?」
「それは明日のお楽しみだ」
「えー、教えてくれないの?ケチ!でも、楽しみだな~」

喜んでいる顔が思い浮かぶ。
日本は夜中だから、余り喋ると家族がいるから迷惑だ。将来を視野に入れているからうさの両親には嫌われたくない。そろそろ名残惜しいが切らないと。
きっとお礼の電話もかかって来るってだろうし、その時に喋ればいい。
それに、眠子のうさはそろそろ寝ないと限界だろうしな。あ、興奮して寝られないか?

「じゃあ、そろそろ切るぞ?」
「えー、早いよぉ。もっと声聞きたかったな……」
「まぁそう言うな。俺も名残惜しい。でも、そちらは夜中だろ?うさの瞼も限界だろ?」
「まもちゃんの意地悪~。眠いけど、頑張れるもん!」
「学校あるだろ?寝ないと授業中に寝て先生に怒られて居残りコースで、俺からのプレゼント受け取るの遅くなるけど良いのか?」
「うっ、それは困る」
「だろ?お休み、うさ」
「お休みなさい、まもちゃん」
「愛してる、うさ」
「私も大好きだよ、まもちゃん」

頑張って起きていられる。と言っていたが、翌日起こるであろう事実を言うとうさは観念して受け入れた。
うさとて悪循環は裂けたいだろう。可哀想だが現実からは目を背けないで欲しい。俺も辛いが、お互い様だ。
後ろ髪を引かれながら、泣く泣く終話した。

「プレゼント、喜んでくれるといいな」

うさの喜ぶ顔と声を想像しながら俺は、遅めの大学へと向かう。
プレゼントを受け取った報告が来たのは、それから22時間後の事だった。

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