第二章 交差


前回の事が心の中で深い傷となっていた私は、ハーバードに着いたら絶対連絡してねって念押ししていた。
10時間ほどかかるって言ってたから、昼一の便で行ったから早くて夜の10時頃かな?
その位の時間帯に風呂を済ませて受話器の前で待機する。
だけど、何分経ってもかかって来ない。ーー不安になる。
まもちゃんの懐中時計と電話を交互に見る。

「まもちゃん、遅いな……どうしたんだろ?」

胸が締め付けられる気がした。こんなに不安になるくらいなら、一緒について行けば良かった。
無事を確認するまで安心出来ない。
けど、そんな気持ちとは裏腹に、目は開けられないほど眠くなってきてしまった。眠子な自分に悲しくなる。

「時差があるし、バタバタしてるのかもだし……」

こちらが夜の10時なら、あちらは朝の8時くらい?
平日なら学校あるから、直行したのかもしれない。そう納得させて、電話から離れて眠ることにした。

まもちゃんからの到着報告が来たのは、私が学校から帰ってきた夕方の事だった。

「うさ、遅くなってしまってすまない」
「まもちゃん!心配したんだから……」

元気そうな声を聞いて、安堵した私はいつの間にか泣いていた。

「うさは泣き虫だな。でも、うさの声聞けてホッとした」
「それは私のセリフだよぉ……無事、着いたんだね?」
「ああ、バタバタしていたから今になってしまったけど、何とか元気さ」
「良かった……」
「じゃあ、また電話するよ」
「待ってる。私からもかけるからね!」
「楽しみにしてるよ。じゃあ、うさ。愛してるよ」
「私も大好きだよ、まもちゃん」

留学初日は到着報告だけで終話した。海外だから少し話すだけでも高く付く。
今後、多分ずっとこんな感じになるんだろうな……なんて悟りの境地。
時差もあるし、仕方ない。今はメールやリモートなんて手段もあるから、本当に文明は発達するものだな。遠距離恋愛の私達にはありがたいと文明の利器に感謝した。

そんなこんなで、時差という敵に悪戦苦闘しながらも私とまもちゃんは、連絡を適度に取り合った。
大学の話や講義のことは正直さっぱり分からない。だけど、まもちゃんが楽しそうに話すのを聞いてるだけで、嬉しくなる。
“嗚呼、生きてるんだなぁ……”なんて実感するの。
私も負けず劣らず学校の事や家族の事、美奈P達のことを話して聞かせてあげた。

「まもちゃん……会いたいな」

自分の小さな頃からの夢であるお医者さんになる為頑張っているまもちゃん。
忙しい分、私と同じくらい寂しく思ってくれてないかもしれない……と温度差を感じて切なくなる。

「私も何か目標作れば、こんな想いも紛れるのかな?」

付き合った当初から、留学を視野に入れている事は聞いていて覚悟はしていた。
だけど、それまで毎日会っていたから、やっぱり長く会えないのは中々堪える。
気づけば今までで一番長く会えていなかった。

「もうあれから3ヶ月経つのか……」

早かったのか遅かったのかは分からない。
けれど、こんなに会えないのは過去最長だった。
前世でも遠距離恋愛をしていた私達は、禁断の恋と言う事もあって、会うのがとても難しかった。
それでも何とか時間を作って私は、何度も地球へ降り立った。
地球と月が険悪になって、危険と分かっていても会いたい気持ちは止まらなかった。止められるはずもなかった。

「エンディミオン……」

“まもちゃん”では無く、昔の彼の名前を呟き、月夜を見上げる。
待ちぼうけと言う所で言うと、まもちゃんより昔の彼の名前を呼ぶ方がしっくりくると思ったから。

「あなたも今の私と同じ気持ちで待っててくれてたのかな?」

いつ来るとも分からない天空のセレニティを想う毎日。寂しかっただろうな……。
そんな気持ちとは裏腹に月は何て綺麗に輝いてるんだろう……。
それがより一層の寂しさを浮き彫りにしていた。

「エンディミオン、セレニティ。大丈夫だよ?色々あるけど、私とまもちゃんは、ずっと一緒だよ?今は離れているけれど、まもちゃんを信じて待ってるよ」

生まれ変わって私たちは周りにも認められて、堂々と付き合えている。結ばれる未来もちゃんとある。

「だから、そこで2人で見守っていてね」

これからもきっと色んな困難が待ち受けている。
留学だってまだ始まったばかりで、いつ帰ってくるか分からない。
だけど、まもちゃんを信じて待ってるよ。
まもちゃんに相応しい彼女になれるよう、私も自分磨きして待つよ。

そうして月明かりに照らされながら私は、良い女になろうとある決意をした。

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