第五章 成人
それから一時間半後。成人式を無事終えた衛は、近くで暇つぶしをしていたうさぎと合流した。
「待たせたな」
「お疲れ様。それと、成人おめでとう、まもちゃん」
バタバタしてて言えてなくて今でごめんと言いながらうさぎは衛の成人を祝った。
「ありがとう、うさ。俺が今ここにこうしていられるのはうさのお陰だ」
「そんな、大袈裟だよ。まもちゃん自身が頑張ったからよ」
衛は、うさぎがここまで生かして導いてくれたのだと感じていた。
六歳で事故にあっても生きていた事も、敵と戦って何度死にかけて助かったのもうさぎのお陰だと思っていた。
「花、買ってくれたんだな」
「うん。やっぱりお墓参り行くのにお花が無いと寂しいでしょ?時間もたっぷりあったからゆっくり吟味して買えちゃった♪」
衛もだが、うさぎにとっても久しぶりの衛の両親の墓参り。決してウキウキする行事では無いものの、二人でまた行ける事がうさぎにとっては嬉しかった。
衛が式に出ている間、近くを探索しているといい感じの花屋があり、色々見て回った結果、お墓参り用に花束を作ってもらったのだ。
「じゃあ、行こうか」
「袴姿のままで大丈夫?」
「ああ、せっかくだからこの姿も見てほしいしな」
「まもちゃん……そうだね」
袴姿は着慣れないし動きにくい。気恥ずかしくて照れるが、やはり衛としてもこの姿を見て欲しいとの思いが勝っていた。
交通機関で向かうため人目を引くが、成人式は全国的な行事。着物を着た人がチラホラいる。そのお陰か、そこまで目立たない。衛は、その事に気づいてホッとする。
「到着、だな」
「久しぶり、だね」
電車をおり、徒歩で霊園へと向かい、到着する。
衛は、桶を取り水を入れ柄杓を手に取り地場家の墓へと向かう。
「父さん、母さん、会いに来たよ」
地場家の墓の前に着くと、衛は墓に向かって挨拶をした。
「ご無沙汰してます。恋人のうさぎです」
うさぎも後を追って、簡単に挨拶をする。
「今日は成人式に出席したんだ。うさのご両親のお陰で袴も着ることが出来たから、見て欲しくて大人になった姿を見せたくて来たよ」
「タキシードも似合っててかっこいいけど、袴姿も決まってて素敵でしょ?」
「ぅさ、褒めすぎだろ」
「本当の事だもん」
当然、返事などは返って来ない。それでも衛は、何処かで見ていてくれている。そんな気がした。
「お花も買ってきました。気に入って貰えると良いな♪」
そう言いながらうさぎはお花を入れる。
「今日はこんな格好だし寒いし、時間もないからお墓を綺麗に出来なくて申し訳ないけど、また必ず来るから」
「まもちゃんの代わりにまたお彼岸の頃に私が綺麗にしに来ますね」
留学中である為、しょっちゅう来られない衛の代わりにうさぎは衛がしていた事で自分が出来ることはしていこうと決めていた。
お墓もその内の一つで、節目には来るようにしていた。
水を入れ、線香をたてると二人は静かに手を合わせ、お墓に拝み始めた。
(父さん、母さん。俺、無事に成人を迎えたよ。あれから14年。あの時とは違って成長したから誰か分からないかもしれないな。二人にも生きて、この姿を見て欲しかった。
うさの両親のご好意でこうして今この姿でここに報告に来られたんだ。うさと同じで凄く良い人達で、良くしてもらってる。本当の子供、家族だと言ってくれてて。そのうさの両親からの伝言“宜しく”ってさ。
あれからも何度も死にかけたけど、俺はまだまだこの世に留まらなきゃいけない理由があるみたい。そっちに行くのはずっと先の未来になりそうだけど、気長に見守っててよ)
(まもちゃんのパパ、ママ。まもちゃん、無事大人になって成人式に出席しました。色んな姿を見てきたけど、袴姿もとっても様になってた素敵な大人の男性になってます。お空でこの姿を見てくれていると嬉しいな)
「さてうさ、そろそろ最終目的地へ行くか?」
拝み終わった衛は、同じタイミングで顔を上げたうさぎに話しかけた。
「もう良いの?」
「ああ、時間もないし、次きた時にゆっくりするよ」
「分かったわ。じゃあ行きましょう。まもちゃん、ゴールデンクリスタルは?」
「ああ、ちゃんと持ってきたぞ」
うさぎに確認され、衛はゴールデンクリスタルを袴の袖から出す。
うさぎは、衛の腕に自分の手を絡ませてピタリとくっ付く。それを確認すると、衛はゴールデンクリスタルを翳すと光に包まれる。