第四章 決心


「大学受験するぅ?」

大きな声で驚いたのは美奈子だった。
パーラークラウンにて、放課後にいつもの五人で集まった時、うさぎが高らかに発表したのだ。

「また、何で?」

まことも驚き、訳を聞く。

「無謀ね。天地、ひっくり返るのではなくて?」
「レイちゃん、ひっどーい」
「やっと、決意してくれたのね!」

全否定するレイに対して、亜美はとても喜び歓迎した。やれば出来る子だと分かっていたと亜美はうさぎに寄り添った。

「亜美ちゃん……」

そんな良き理解者に、うさぎは泣いて喜んだ。

「なんたってわざわざ受験勉強?」
「美奈Pみたく、呼び出されて説教されたくないもん」

高校卒業後は各々自由だ。勉強したくないなら大学では無く就職や専門学校、短大にすればいい。
現に美奈子はもう真っ直ぐアイドルを目指して突き進んでいて、進路希望にもアイドルと記入して提出していた。
しかしこれが進路指導の先生の逆鱗に触れ、呼び出されて説教されたのだ。それを聞いたうさぎは、流石にお嫁さんなんて書けないと悟ったのだ。

「しっつれいしちゃうわよ、全く。真剣な人の夢を全否定してくれちゃってさ!大真面目に書いたっつーの!」

数日前の事だが、未だに腹が立つらしい美奈子は闘志を燃やしていた。

「絶対!売れっ子になってギャフンと言わせてやるんだから!」
「あはは、それだけかい?」

うさぎだってお嫁さんは真剣な夢だ。
しかし、現状色々無理である事は分かっているし、美奈子以上に否定されるのがオチだと想像出来た。

まことの問いにうさぎが本音を吐露する。
昨日、家族に言ったことにセーラー戦士としての未来の本音を交えた。

衛と同じ大学に行きたいこと。その中で自分がやりたい事を四年で見つけたいこと。
衛に見合う、肩を並べて歩いても恥ずかしく無い人になりたいこと。
何より、クイーンになるかも知れない。その可能性の為にも多くを学び、備えておく必要がある。それは避けては通れないことだと感じた事を話して聞かせた。

「うさぎちゃんの考えは理にかなっているし、正しいわ。私も出来ることがあれば協力するから、言ってね」
「ちゃんと考えてるんだな。確かに恋って原動力になるよな。いいなぁ、彼氏と同じ大学。でも、勉強は嫌いだからやりたくねぇけど」
「ま、理解はできるけど、根をあげなきゃいいけどね」
「チッ、結局はまもちゃんか!」

各々の反応は様々だが、四人らしい反応だった。

「ご両親は、なんて?」
「うん、私の決めたことなら応援するから頑張れって」
「へぇー、両親にも言ったなら本気なんだ」
「本気も本気だよ!美奈Pもでしょ?」
「当然よ!誰がなんと言おうがアイドルになるわ!」

うさぎが両親に宣言した事で、本気度を見た美奈子とまことは単純に驚くが、同時に尊敬した。
恋は確かに原動力になる事を二人は知っている。
しかし、恋人の為に嫌いな事を進んでしようとは思わない。目の前のうさぎは、難なく立ち向かおうとしていた。
その姿は、かつて敵と戦うのは怖いが自分がやらなければ太刀打ち出来ない相手だと強大な敵に向かっていったセーラームーンそのものに見えた。単純に尊敬に値する。
やはりついて行きたい。守りたい人だと改めて感じた。

「うさぎの事、バカになんてしないわ!どんな未来でも、私はずっと貴女について行くから」
「私も、尊敬してるよ。頑張れ!」
「美奈P、まこちゃん……」
「ま、乗り掛かった船よ。どこまでもついて行ってあげるから、安心しなさい」
「レイちゃん……」

色々心配や文句を言っていても、やはり何だかんだでうさぎの事が好きなのだ。基本的には応援して見守るスタイルを取っている。

「で、学部はどうするの?」

最も現実的な亜美は、すんなりうさぎの進路を受け入れて応援しつつも、次なる壁をぶつけて来る。
衛と同じ大学はいいが、どこの学部に入るかが問題だ。そもそも今のうさぎでは、二年間頑張ったとしても限られている。入ってからの事も考える必要がある。ついていけなければ意味が無いし、興味がありそうな将来の役に立ちそうな学部でなければならない。

「うっ、亜美ちゃん……」

痛いところを突かれたうさぎは、亜美に泣きついた。

「それが問題なのよぉ〜」
「でしょうね。医学部は無理だから、諦めるわよね?」
「……はい」
「最低限、衛さんと同じ大学に入れれば良いなら、一番低い偏差値で入れる学部がいいわ。無理は禁物だから」
「……ですよね」

元よりうさぎとて無理はしたくはなかった。それも衛は望まないはずだから。
大学に入り、無理なく頑張れるなら選り好みはしないと決めていた。

「文学部辺りがお勧めね。心理学や人間科学なんかが学べるし、うさぎちゃんにピッタリだと思うわ」
「亜美ちゃん……」
「クイーンになるにしろ、ならないにしろうさぎちゃんに合ってると思うの。勿論、レベルもうさぎちゃんに無理がないわ。どう?」

流石は亜美だ。的確にうさぎの合う学部を提案して来る。
うさぎは、ワクワクしているのが分かった。

「うん、考えてみる。ありがとう、亜美ちゃん」
「ううん。うさぎちゃんがやる気になってくれて嬉しいわ。頑張ってね!」
「うん」

その後うさぎは進路希望調査書を出し、大学の資料を取り寄せてもらった。
まだ二年近くある為、ゆっくり検討しながら先ずは目の前に迫っている一学期の学期末テストに向かい勉強を片付けることに集中することになった。

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