第三章 恋慕


アメリカでの生活は充実していた。充実した中でもやはり心の中にはポッカリと穴が空いていて、ふとした瞬間に寂しさが込上げる。

元々一人だった俺は長い間孤独には慣れていた。慣れていたはずだったのだ。
しかし、ここ数年俺は孤独とは無縁の生活を送っていた。ーーうさだ。

うさとの生活が当たり前になり、慣れてしまい一人でいる事に怖くなってしまっていた。忘れていた。こんなに孤独が怖いなんて。
うさといることで独りじゃない事が当たり前になって、逆に孤独であった時の自分がどんな風に過ごしていたのか分からなくなってしまったようだ。
うさの存在がこんなにも大きく当たり前になっていた事に改めて気付かされた。

「うさ……」

その中でも家の中がやはり一番孤独を感じる。俺だけの空間はとても広く、どうすればいいか分からなくなる。
一人暮らしだからと狭いアパートを借りたが、それでも一人にしてはどこか広いように思う。やはりアメリカンサイズと言うのはビックなのだと言う事を目の当たりにして驚く。
俺のマンションも広いが、その比では無い。これで格安なのだから良心的だと言える。

「会いたいなぁ……」

うさは華奢で決して大きくないのに、こんなにも存在感があったんだな。俺の心に寄り添って、孤独にならないようにしてくれていたのだと気付くと胸が締め付けられそうになる。

「今、うさはどうしてるんだろう」

半日以上の時差があるから声を聞きたくても出来ない事がもどかしい。
前世と違い文明の利器がかなり発達しているというのに、前世より逆に不自由で嫌になる。会えない。声も聞けない。
やはりこの方法しかないのか?

「今夜も月が綺麗だ」

そう、前世の時も会えない時は夜空を見上げて月を眺めていた。
例に漏れず俺は留学した日から月を眺めるのが日課になっていた。

「いつの時代もうさの守護星は一番綺麗に輝いているよ」

月を見ると遠くにいるうさを近く感じられるような気がしてホッとする。見守ってくれているというか、独りじゃない。応援していると言ってくれているような気がする。

「それにしても今日の満月は特に大きく感じるな」

今夜は満月だった。やけに大きく近く見える気がして調べて見ると、今日はスーパームーンらしい事が分かった。
なる程。だからこんなに大きく間近に見えていたんだな。

「うさも俺が寂しいと思って近くに来たがっているのかな」

そうだと嬉しいなと柄にもなく考えた。

「しかも今日は珍しいブルームーンって奴か」

実際に月が青く見える訳では無いが、うさならこう言うんじゃないかと想像した。

「地球に接近して同じ色になったんだね。セレニティはずっと地球に憧れていたから」

うさならそんな事、言ってくれるんだろうな。残念ながらその言葉を、声を聞く事は今は叶わないけれど。
うさもこの月を見ていたのだろうか?
時差があるから同じタイミングで同じ事が出来ないのが残念だが。

「ありがとう、うさ。明日も頑張れそうだ」

孤独には押しつぶされそうだが、自分が決めた道だ。夢も目標もある。その為にこの留学をやり遂げ無ければならないと奮い立たせ、前に進み続ける。
我慢して待っていてくれるうさのため、改めて頑張ろうと決意した。

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