第一章 惜別


それは突然の話だった。
ううん、どこかで分かっていたし正直そんな予感がどこかでしていたし、覚悟していた。でも、こんな急だなんて思いもしていなかったから覚悟なんて全然出来てなんてなんかいなかった。


まもちゃんにまた留学の話が持ち上がり、本人さえ良ければすぐにでもという事らしいと呼び出されて話を聞いた。


まもちゃん曰く、留学先の大学が何の連絡もなく中々来ない事を心配し、日本の大学側に問い合わせるが、とっくに行っているはずと言われて何か事件に巻き込まれ、来ることが出来ないのではととても心配していて、やっと連絡がついたこの日にまもちゃんさえ良ければ留学先の大学がもう一度受け入れてくれるって話らしい。


ギャラクシアとの未来の宇宙を賭けた壮絶な戦いが終わり、みんなを取り戻してやっと平和な日々が送れると思っていたのも束の間、まもちゃんがまた留学に行ってしまうかもしれないなんて…。


「俺、行こうと思うんだ。うさはどうかな?」


どう?って聞いてきたけど、もう答えは出てるんだからズルい。


「また留学出来るんだね。良かったね!まもちゃんの夢だったもんね」


本当は行って欲しくないのに、私のわがままでまもちゃんの夢を縛れない事が分かっているから、どれだけまもちゃんが留学したがっていたか知っていたから心とは裏腹に後押しした。


「いいのか?留学すれば簡単には帰ってこられないし、一年以上はいることになる」
「私なら大丈夫だよ!みんなもいるし、気にせず行ってきて」


どんな理由であれ、留学先の大学に数ヶ月何の連絡も無く行かなかったにも関わらず又来ないかと話が来るなんて滅多にないことくらいバカな私にも分かる。
そのチャンスにすがりついて行きたいってまもちゃんの気持ちが痛い程伝わってくる。


「行くって返事をしたらすぐに出発する事になる」

本来ならもうとっくに行って学んでいるはずだから前と違ってOKの返事をすると話がトントン拍子に進むんだって。
仕方ないけど、ゆっくりお別れ出来ないのは寂しい。
この瞬間もとても尊い大切な時間なんだって思ったら急にとても寂しい気持ちになった。


「そっか…」


まりにも突然で考える余裕も無くて言葉も出てこなくなって、そっかと一言発するのが精一杯で、笑顔でまもちゃんを応援しようとしたけど、上手く笑えず悲しい顔になってしまって失敗だった。
そんな私の気持ちを察してか、思いっきり私を抱きしめてきたまもちゃんも同じ気持ちなのか抱きしめられた身体が震えていた。
そして耳元で「ごめん、ありがとう」と呟き、体を離すといつの間にか泣いていて流れた私の涙を拭いながら顔を近づけ唇にキスをしてくれた。
いつもより優しく、そして力強く長く、お互いの気持ちを確かめるように深く熱いキスだった。


「私、ずっと待ってるから。だから頑張ってね!」


長いキスの後に精一杯の強がりの言葉をやっとの思いで発すと、まもちゃんは微笑んで頷いた。





大学の教授に返事をした3日後に出発が決まったかと思ったら、あっという間に出発の日が来てしまった。本当に返事をしてからトントン拍子で悲しんだり寂しい想いをしている暇もなくて、お別れの日までたったの3日でも別れを惜しむように時間が許す限り一緒に過ごした。




出発当日、空港に見送りに来てあの日の事を思い出し、またまもちゃんがバラバラになっちゃうんじゃないかと怖くなって不安になってしまい、まもちゃんの左腕に回していた両手が自然とギュッと強く締め付けていた。


「うさ、大丈夫だよ」


まもちゃんもあの日の事を思い出したのか、注意深くキョロキョロと周りを警戒して気を張りながら私の事も気遣い優しく安心する様諭すように心配した声で話しかけてくる。


「そう…だよね?ギャラクシアはもういないんだもんね?戦いは…終わったんだもんね!」


確かめるように、そして自分に言い聞かせる様に力強く言い聞かせる。

私の目の前でギャラクシアは消滅してしまった。最期は改心しようとしていたから助けようとしたけど、遅かった。彼女もまた私たちの様に転生して幸せになっていればいいなと思う。



搭乗の時間が迫ってきて私たちはお互いの気持ちを確かめるようにきつく抱きしめ合ってキスをし、最後の言葉を交わす。
笑ってお見送りしようって思っていたのにやっぱり出来なくって、自然とこぼれ落ちた涙が溢れてきて止まらない。旅立つ彼には笑顔の私を焼き付けて思い出して欲しいのに、その想いとは裏腹に止められない涙に悔しくなる。
前の時と同様にお互い連絡を取り合う事、たまには帰国してくれることを約束する。


「あの時言いかけて言えなかった事がある」


改まって私の顔を真剣な顔で見ながら左手を取り、あの日貰って薬指につけてもらったハートの指輪を触りながら言葉を続けるまもちゃん。


「うさ、帰ってきたら結婚しよう」


それはまもちゃんからの突然のプロポーズだった。嬉しくて、嬉しすぎて元々流れていた涙がより一層滝のように流れ落ちた。


「…うん。嬉しい!ありがとう、まもちゃん。行ってらっしゃい!」


プロポーズの言葉を聞いて勿論寂しさは簡単には無くならないけど、心は大分晴れてみるみる軽くなっていって素直に“行ってらっしゃい”が言えた。
“結婚しよう ”の言葉は不思議な力と破壊力があるなと実感した。心が暖かく高揚してポカポカしてくるのが分かる。私に勇気と力と元気をくれる。



戦いの中で予め私たちが一緒になっている未来を見てはいたけど、決して約束されたものでは無いし、未来なんて私たちの手で幾らだって変えて行けることも分かっている。ギャラクシアとの戦いでもう一生みんなと会えないかも知れないと言う絶望の未来も見ていたし、この先もまた色んな敵と戦う事もあるだろうし、その度死ぬ覚悟を決めて挑まなきゃいけない。だからこそ、改まってプロポーズされてとても嬉しかった。これから先の何よりの希望になる言葉だった。



「じゃあ行ってくる!」

私の快諾の言葉と寂し涙が嬉し涙に変わったのを確認したまもちゃんは寂しい中にも安心したのか、ホッとした軽やかな声で旅立って行った。



私、待つわ。いつまでも待ってるわ。寂しいけれど、まもちゃんからのプロポーズの言葉を胸に待てるわ。旅立つ後ろ姿を見えなくなるまで見ながらそう思えた。





空港の屋上に移動した私は、まもちゃんが乗ったであろう飛行機が空高く舞い上がっていくのを見送った。いつだったかトレードしようと約束して、し損ねていた懐中時計を御守りのようにこの手に持ちながら。ちゃんと動いている懐中時計を確認してホッとする。彼が元気で旅立って行った証だから。




頑張ってね、まもちゃん!

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