満月を探して
「アルは?」
「え?」
「未来はどうしたいの?」
ルナに聞かれたアルテミスはルナと違いあまり未来の事を考えていなかったことに気付く。返答に困り、言葉に詰まる。
「お、俺は……美奈次第、かな?」
アルテミスは美奈子の相棒だ。
彼女がどう言う結論を出すかで、アルテミスも立ち位置が決まると思っていた。
だからルナの様にハッキリとした将来の全貌はない。アルテミスに意思はなかった。
まだまだ先のことだと思っていて、深く考えてもいなかった。
それに引き換え、ルナはしっかり将来を考えているようだ。少し、置いていかれて寂しい気持ちになる。
「そりゃあ、このままじゃいけないとは漠然と考えてはいたけどさ」
これは本当だ。
「今は愛野家に飼い猫として居候させてもらってる身だろ?でも俺、人間にもなれるし、ルナ達とは違って異性だから間違いなんてないけど、万が一って事もあるしな。
美奈達もそれぞれ自分達の幸せを掴んでそれぞれやっているし。アイツもそれは嫌だろうとは思うよ」
あれから月日は経ち、美奈子達には恋人が出来ていた。順調に育んでいるその愛は、確固たるものとなり、やがて一緒に歩んで行く未来を見据えていた。
勿論、各々夢もある。
うさぎがクイーンとなり、統治する事になれば自然と守護者として傍で支える心構えはできているだろう。
「今はいいとしても、なあ……」
「知ってるわよ。公斗さんに遠慮して司令室で寝泊まりしていること」
「ば、バレてたのか?美奈経由でうさぎに聞いたんだな?」
ったくアイツはおしゃべりな奴だとアルテミスは呆れて大きな溜め息をついた。
「公斗さんの家に泊まればいいんじゃない?」
「ジョーダン!息苦しいよ……」
ルナの意外な提案に想像しただけで肩が凝りそうだとアルテミスはドッと疲れる思いがした。
「だったら衛の家に泊まらせて貰うよ」
「うさぎちゃんに嫉妬されるかもよ?」
「うっ、それも嫌だな」
話が思わぬ方向へと向かい、二匹は互いに顔を見合せてそこで初めて笑顔になって笑った。
「でも、未来なんてまだまだ遠いと思っていたけど、もうすぐそこなのか?」
千年時代の月の王国での暮らしを経験しているアルテミスにとっては未来なんてまだまだ遠いと思っていた。
「月で暮らすのは、今すぐってことじゃないの」
「ああ、将来って言ってたもんな。ルナは地球が嫌いかい?」
「え?」
アルテミスの意外な質問に、今度はルナが驚いた。
「だって月に帰りたいって言うから、地球は嫌なのかなって」
確かに地球で目覚めてから今まで、結構苦労したし酷い扱いも受けた。地球の男に恋をしたが振られたこともある。
「ううん。確かに色々あったわ。だけど嫌いなんてこと、絶対にない」
ルナは慌てて弁解しながら首を横に振った。
そして、右手を上げた。
「ここにいなきゃ、月がこんなに綺麗なんて分からなかったし、知らなかったもの」
満月では無いが、夜空に一際存在感を放つ様に光り輝く月を指さしながらルナは満足気にニコッと笑った。
アルテミスは、そんなルナが一番綺麗だと思ったが、気恥ずかしくて口には出せずに飲み込んだ。
「そうだな。月が綺麗だ」
「まあ、アルったら!」
アルテミスが意図している事を汲み取ったルナは照れ笑いをする。
「私はただ、前の様に月の王国が再建しているのに誰も住まないでそのままなんて勿体ないって思ったの」
「未来に言った時、クイーンであるうさぎもクリスタル・パレスに住んでるみたいだったしな」
月野うさぎとして産まれ、そのままクイーンとなるうさぎ。衛のためにも、生まれたクリスタル・トーキョーで住むことになるだろう。
うさぎ自身も最初からその意志を示して来た。きっとこれからも変わらない。
ルナもその意志を尊重してやりたいと葛藤した結果、自身が行く事に意志を固めたのだ。
「地球は素敵だわ。だけど、本当なら来る事はなかったわけだし、私は月に骨を埋めたいの」
「意思はかたそうだな。マウ星はいいのか?」
きっとずっと悩んで迷って葛藤して出した答えなのだろう。アルテミスはその意思を尊重したいと思った。
「気にはなるわ。ティンにゃんこがどうしてあんな行動を取らなきゃいけなかったのかも気になるし」
「裏切り者って言われた事、気にしてるのか?」
「ちょっとね。誤解は解きたいわ」
「いつか、マウ星にも行くか?今の俺達ならマウ星なんてすぐ行けるさ」
「そうね」
産まれ故郷のマウ星は気にかかる。
裏切ってはいないが、もう帰る場所ではない。
やはりルナはどうしても月が自身の住むべき場所と認識していた。
「ルナ」
「なぁに、アル?」
アルテミスはある決意を固め、強い意志を持って力強くルナの名を呼んだ。
今までのアルテミスとはどこか違う雰囲気にルナはドキリとした。
「俺もルナと一緒に月に住むよ」
「アル!?」
突然のアルテミスの決意表明に今度はルナが驚く番だ。
「決めたから!俺の意思だから、ルナに何と言われても行く!」
相棒は美奈子だが、彼女にも色んな可能性がある。美奈子とアルテミスはもう根本的に立場が違っていた。
きっと美奈子もこの決断を応援してくれるだろう。
「ルナはさ、本当に一人でいっぱい色んなものを抱えすぎなんだよ。俺が側にいてずっと支えるから、いつでも頼って欲しい」
それに一人、月に住むなんて寂しいだろ?とアルテミスはおどけたように言葉を続ける。
「アル、本当にいいの?」
「おっと、嫌だって言ってもついて行くからな!」
「そんな事、言わないわ。だけど、あたしのためなら……」
「ストーップ!俺の意思だって言っただろ?」
「アル……」
優しいアルテミスの決意に、ルナは胸が熱くなるのが分かった。
「一緒に月で暮らそうな、ルナ」
「クスクスッ。それって、そう言うこと?」
「もう、誰にも渡したくないから、予約、な?」
「まぁ、アルったら」
今度こそ間違えない。
ルナの心に寄り添い、ずっと傍で生きていこうとアルテミスは決意を固めた。
(これで良いんだよな、美奈)
アルテミスは愛の女神である相棒に、月の近くで輝く彼女の母星、一番星を見ながら自身の決断と行動を心の中で呟いた。
おわり
20231114 いい意志の日🤣
「え?」
「未来はどうしたいの?」
ルナに聞かれたアルテミスはルナと違いあまり未来の事を考えていなかったことに気付く。返答に困り、言葉に詰まる。
「お、俺は……美奈次第、かな?」
アルテミスは美奈子の相棒だ。
彼女がどう言う結論を出すかで、アルテミスも立ち位置が決まると思っていた。
だからルナの様にハッキリとした将来の全貌はない。アルテミスに意思はなかった。
まだまだ先のことだと思っていて、深く考えてもいなかった。
それに引き換え、ルナはしっかり将来を考えているようだ。少し、置いていかれて寂しい気持ちになる。
「そりゃあ、このままじゃいけないとは漠然と考えてはいたけどさ」
これは本当だ。
「今は愛野家に飼い猫として居候させてもらってる身だろ?でも俺、人間にもなれるし、ルナ達とは違って異性だから間違いなんてないけど、万が一って事もあるしな。
美奈達もそれぞれ自分達の幸せを掴んでそれぞれやっているし。アイツもそれは嫌だろうとは思うよ」
あれから月日は経ち、美奈子達には恋人が出来ていた。順調に育んでいるその愛は、確固たるものとなり、やがて一緒に歩んで行く未来を見据えていた。
勿論、各々夢もある。
うさぎがクイーンとなり、統治する事になれば自然と守護者として傍で支える心構えはできているだろう。
「今はいいとしても、なあ……」
「知ってるわよ。公斗さんに遠慮して司令室で寝泊まりしていること」
「ば、バレてたのか?美奈経由でうさぎに聞いたんだな?」
ったくアイツはおしゃべりな奴だとアルテミスは呆れて大きな溜め息をついた。
「公斗さんの家に泊まればいいんじゃない?」
「ジョーダン!息苦しいよ……」
ルナの意外な提案に想像しただけで肩が凝りそうだとアルテミスはドッと疲れる思いがした。
「だったら衛の家に泊まらせて貰うよ」
「うさぎちゃんに嫉妬されるかもよ?」
「うっ、それも嫌だな」
話が思わぬ方向へと向かい、二匹は互いに顔を見合せてそこで初めて笑顔になって笑った。
「でも、未来なんてまだまだ遠いと思っていたけど、もうすぐそこなのか?」
千年時代の月の王国での暮らしを経験しているアルテミスにとっては未来なんてまだまだ遠いと思っていた。
「月で暮らすのは、今すぐってことじゃないの」
「ああ、将来って言ってたもんな。ルナは地球が嫌いかい?」
「え?」
アルテミスの意外な質問に、今度はルナが驚いた。
「だって月に帰りたいって言うから、地球は嫌なのかなって」
確かに地球で目覚めてから今まで、結構苦労したし酷い扱いも受けた。地球の男に恋をしたが振られたこともある。
「ううん。確かに色々あったわ。だけど嫌いなんてこと、絶対にない」
ルナは慌てて弁解しながら首を横に振った。
そして、右手を上げた。
「ここにいなきゃ、月がこんなに綺麗なんて分からなかったし、知らなかったもの」
満月では無いが、夜空に一際存在感を放つ様に光り輝く月を指さしながらルナは満足気にニコッと笑った。
アルテミスは、そんなルナが一番綺麗だと思ったが、気恥ずかしくて口には出せずに飲み込んだ。
「そうだな。月が綺麗だ」
「まあ、アルったら!」
アルテミスが意図している事を汲み取ったルナは照れ笑いをする。
「私はただ、前の様に月の王国が再建しているのに誰も住まないでそのままなんて勿体ないって思ったの」
「未来に言った時、クイーンであるうさぎもクリスタル・パレスに住んでるみたいだったしな」
月野うさぎとして産まれ、そのままクイーンとなるうさぎ。衛のためにも、生まれたクリスタル・トーキョーで住むことになるだろう。
うさぎ自身も最初からその意志を示して来た。きっとこれからも変わらない。
ルナもその意志を尊重してやりたいと葛藤した結果、自身が行く事に意志を固めたのだ。
「地球は素敵だわ。だけど、本当なら来る事はなかったわけだし、私は月に骨を埋めたいの」
「意思はかたそうだな。マウ星はいいのか?」
きっとずっと悩んで迷って葛藤して出した答えなのだろう。アルテミスはその意思を尊重したいと思った。
「気にはなるわ。ティンにゃんこがどうしてあんな行動を取らなきゃいけなかったのかも気になるし」
「裏切り者って言われた事、気にしてるのか?」
「ちょっとね。誤解は解きたいわ」
「いつか、マウ星にも行くか?今の俺達ならマウ星なんてすぐ行けるさ」
「そうね」
産まれ故郷のマウ星は気にかかる。
裏切ってはいないが、もう帰る場所ではない。
やはりルナはどうしても月が自身の住むべき場所と認識していた。
「ルナ」
「なぁに、アル?」
アルテミスはある決意を固め、強い意志を持って力強くルナの名を呼んだ。
今までのアルテミスとはどこか違う雰囲気にルナはドキリとした。
「俺もルナと一緒に月に住むよ」
「アル!?」
突然のアルテミスの決意表明に今度はルナが驚く番だ。
「決めたから!俺の意思だから、ルナに何と言われても行く!」
相棒は美奈子だが、彼女にも色んな可能性がある。美奈子とアルテミスはもう根本的に立場が違っていた。
きっと美奈子もこの決断を応援してくれるだろう。
「ルナはさ、本当に一人でいっぱい色んなものを抱えすぎなんだよ。俺が側にいてずっと支えるから、いつでも頼って欲しい」
それに一人、月に住むなんて寂しいだろ?とアルテミスはおどけたように言葉を続ける。
「アル、本当にいいの?」
「おっと、嫌だって言ってもついて行くからな!」
「そんな事、言わないわ。だけど、あたしのためなら……」
「ストーップ!俺の意思だって言っただろ?」
「アル……」
優しいアルテミスの決意に、ルナは胸が熱くなるのが分かった。
「一緒に月で暮らそうな、ルナ」
「クスクスッ。それって、そう言うこと?」
「もう、誰にも渡したくないから、予約、な?」
「まぁ、アルったら」
今度こそ間違えない。
ルナの心に寄り添い、ずっと傍で生きていこうとアルテミスは決意を固めた。
(これで良いんだよな、美奈)
アルテミスは愛の女神である相棒に、月の近くで輝く彼女の母星、一番星を見ながら自身の決断と行動を心の中で呟いた。
おわり
20231114 いい意志の日🤣
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